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「藤井聡太らの研究に必須」コンピューター将棋と初対局・米長邦雄は晩年ガンとも闘った「《あちらの営み》に支障は…」医師が苦笑の逸話 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byKeiji Ishikawa/JIJI PRESS

posted2023/12/18 11:00

「藤井聡太らの研究に必須」コンピューター将棋と初対局・米長邦雄は晩年ガンとも闘った「《あちらの営み》に支障は…」医師が苦笑の逸話<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa/JIJI PRESS

藤井聡太竜王名人を筆頭に、将棋界でAI研究は日常となった。その中でコンピューターと電王戦で初めて戦った米長邦雄永世棋聖の晩年を知る

 数日後に担当医から「採取した12カ所のうち、4個がガンと判明しました。放射線では取り切れないかもしれませんので、切除をお勧めします」との診断を受けた。

 米長はセカンドオピニオンとして、ほかの医療関係者にも治療法について相談した。そして最終的な判断として、放射線照射か切除の二択に至った。東京女子医大病院の担当医は、それぞれの術前、術後、予後について適切に説明し、最後に「選択するのは患者であるあなた自身です」と言った。将棋にたとえると〈対局者(患者)が戦法(治療法)を選択する〉ことになる。

 米長は熟慮の末、放射線照射の治療を受けることを決めた。切除して「男」の機能を失うことを回避したのだ。

 2008年10月下旬、体の外から6方面に放射線を照射する治療が始まり、11月末まで計15回に及んだ。12月中旬には高線量率組織内照射の手術が、午前・午後の2回(1回あたり2時間30分)にわたって行われた。その翌日に担当医から「手術は成功しました」と報告された。

「先生、《あちら》はどうなんでしょう」

 米長は退院した日に「先生、《あちら》はどうなんでしょう」と尋ねた。すると担当医は「テストステロンの数値がかなり低いので、当分はその気にならないと思います。今の時点で患者さんから、そのようなことを聞かれたのは初めてです」と、苦笑しながら答えた。

 米長は後日、前立腺ガンを患って病院で治療を受けたことを公表した。「手術は成功しました。おかげさまで《あちら》の営みに支障はありません」と、米長らしい言葉で術後の経過が良好であることを語った。

 その後、自身のホームページ『米長邦雄の家』、著書『癌ノート』(ワニブックス)で、治療法の選択や治療前後の過程を詳しく伝え、同じ病気で苦しんでいる人たちの共感を得た。その闘病生活と並行して米長が戦ったのが、前述した『電王戦』だった――。

<第2回につづく>

#2に続く
「AI将棋に初めて負けた名棋士」米長邦雄69歳“弱音と本音の最期”死の4カ月前、抗ガン剤での剃髪姿となり「仏の道に近づいて…」

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