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「藤井聡太らの研究に必須」コンピューター将棋と初対局・米長邦雄は晩年ガンとも闘った「《あちらの営み》に支障は…」医師が苦笑の逸話 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byKeiji Ishikawa/JIJI PRESS

posted2023/12/18 11:00

「藤井聡太らの研究に必須」コンピューター将棋と初対局・米長邦雄は晩年ガンとも闘った「《あちらの営み》に支障は…」医師が苦笑の逸話<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa/JIJI PRESS

藤井聡太竜王名人を筆頭に、将棋界でAI研究は日常となった。その中でコンピューターと電王戦で初めて戦った米長邦雄永世棋聖の晩年を知る

 当初は羽生善治二冠に打診したが「私が将棋ソフトと対戦する場合、プロ公式戦をすべて休場し、対戦相手のソフトを1年かけて研究します。そのうえで対戦します」という見解だった。

 その後、協賛社の総合的な判断によって、米長が2012年1月に将棋ソフトと対戦することになった。現役を引退してから8年の空白があった。棋力や勝負勘を取り戻すために、使い慣れないパソコンを操作し、毎日5時間も練習した。

「ボンクラーズ」に苦戦も相手の苦手を発見した

 電王戦に登場する最強ソフトは、1秒間に1800万手も読むという「ボンクラーズ」。「ボナンザ・クラスター」の略で、将棋ソフト「ボナンザ」に改良を加え、複数のコンピュータを「クラスター」(集団の意)にしてつないだ。

 米長は「ボンクラーズ」と何局も対戦したが、なかなか勝てなかった。そのうちに苦手な面があることを発見した。漠然とした局面では、必ずしも正解手を指すとは限らないからだ。正面から戦わず、最善手を指さない方針を立てた。さらに実戦を重ねて研究し、独自の作戦で臨むことにした。米長と将棋ソフトの対戦については、第2回で詳述する。

 その一方で、当時の米長は半年ごとに人間ドックで精密検査を受けていた。60歳以降は前立腺が肥大気味と担当医に言われたことで、前立腺ガンが気になって血液検査のPSA(前立腺特異抗原)の数値を調べることにした。なお、前立腺肥大は加齢によって生じる排尿障害などの疾患で、前立腺ガンは悪性腫瘍のこと。医学的には違う病気で、肥大症がガン化することはないという。

 PSA検査の正常値は4.0以下。米長はずっと4.0以下だったが、2007年10月に5.08、2008年3月上旬に7.26と上昇していった。担当医から「ガンの疑いがあります」と言われた。ただ日常生活を快適に過ごしていて、自覚症状は何もなかった。

 米長はその事態に際し、関連の本を読んだりインターネットで検索するなど、自分で調べてみた。将棋の対局に備えて研究するように真剣に取り組んだのだ。手術後の深刻な問題が「尿漏れ」だと知ると、オムツをしている自分の姿を想像して気が重くなったという。

“男”の機能を失うことを回避した

 2008年3月下旬、米長は東京・新宿区の東京女子医科大学の泌尿器科で、細胞を採取する生検を受けた。

【次ページ】 「先生、《あちら》はどうなんでしょう」

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