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藤井聡太14歳を師匠がベタ褒め「将来はタイトルを総ナメに」“盛りすぎ”じゃなかった高評価…対戦相手も超本気だった『炎の七番勝負』ウラ話
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byNanae Suzuki
posted2023/12/07 11:01
プロデビュー当時は謎に包まれていた藤井聡太の“実力”。だが、師匠の杉本昌隆はその時点で「全冠制覇」の可能性を口にしていたという
意気込みが強かったのは藤井聡太ではなく…
野月は対局の収録にも立ち会っている。棋士たちが対局に集中できるよう環境作りに気を配っていたが、スタジオでの藤井は特に緊張した様子もなかったという。午前と午後で2局を戦う日も、奨励会と同じ形式ということもあってか、伸び伸びと指していた姿が印象的だった。
「まだ中学生で、将棋を指せるのが楽しい、という感じでしたね。全然緊張もしていないし、普段当たることのない相手と1日で2局指せるのがありがたい、という雰囲気で来ていました」
むしろ印象に残っているのは、藤井よりも相手側の意気込みの方だ。特に若手棋士からは、今後タイトルを争っていくことになりそうな大型新人に、気持ちを入れて臨んでいる雰囲気が感じ取れた。野月は推察する。
「斎藤慎太郎さんや中村太地さんにとっては、純粋に藤井さんと戦ってみたいという楽しみとともに、自分がタイトルを獲るときのライバルになるかもしれない相手との対局という部分もあったのかもしれないですね。思いを持って臨んでいたのは、藤井さんよりも彼らの側だったかもしれません」
中村はこの年に、斎藤は翌18年に、どちらも王座のタイトルを初めて獲得している。藤井の出現は、彼らの思いに火をつけたのかもしれない。
野月浩貴が藤井聡太との対局で感じたこと
この『炎の七番勝負』だけではない。
学生服の天才の出現は、その後、公式戦で対局した多くの現役棋士に刺激を与えている。ABEMA将棋チャンネルでは、デビューから藤井の公式戦の対局を必ずと言っていいほど生中継している。順位戦はC級2組からスタートし、棋戦は予選から参加するため、ベテランと呼ばれる棋士と対局することも多かった。多くの注目を集める一局で恥ずかしい将棋は指せないと、みな静かに闘志を燃やして臨んでいたようにも見えた。野月は言う。
「昔と違い、対局する映像が一日中流れますからね。ファンの方は藤井さんをメインで見ているかもしれないですが、自分たちも将棋の内容から表情、姿勢まで、全てを見られるわけです。じゃあどうするって言ったら、将棋を一生懸命に指すこと。自分がやってきた数十年分の全てを出し切りたいという思いはありますよね」
野月自身も、2020年に順位戦B級2組で藤井と対局している。
当時の藤井はすでに二冠のタイトルホルダーだった。特別な一局だからと気負うことはなく、いつものようにコンサドーレ札幌のチャントが揮毫された扇子を持参し、普段通りのルーティーンで臨んだ。難解すぎる中盤でお互いに長考する展開だったが、終盤に抜け出した藤井が勝利となった。敗れはしたものの、積極的な指し手で自分らしさを貫いた対局だったと野月は振り返っている。