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藤井聡太と“神の一手”「評価値6%→96%の大逆転」「36分の一手=AIで1時間超解析して“ほぼ最善”」タイトル経験・対戦棋士が脱帽の理由

posted2023/10/14 06:01

 
藤井聡太と“神の一手”「評価値6%→96%の大逆転」「36分の一手=AIで1時間超解析して“ほぼ最善”」タイトル経験・対戦棋士が脱帽の理由<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

藤井聡太八冠の将棋で“恐るべき一手”を、棋士たちはどう見たか?

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NumberWeb編集部

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Keiji Ishikawa

八冠全制覇を達成した藤井聡太(21)。対局相手、タイトル獲得棋士が驚愕した2023年バージョンの“神の一手”とは?

<名言1>
長考して、寄せにいく手にすがってしまったんです。
(村田顕弘/Number1076号 2023年7月6日発売)

https://number.bunshun.jp/articles/-/858065

◇解説◇
 藤井聡太竜王・名人が八冠全制覇なった王座戦第4局、話題となったのは「残酷なまでの大逆転劇」だった。藤井の放った122手目は盤面の中央に銀を放つというものだったが、ネット中継上に表示された評価値は藤井から見て〈1%−99%〉、つまり相手の永瀬拓矢前王座に勝ち筋がある状況だった。

 しかし1分将棋という極限の状況で、その筋を見つけられるかどうか……という藤井の仕掛けに永瀬は正着ではない手を指すと、評価値は一変。その現実に気づき、頭をかきむしる永瀬の姿を見て、将棋という競技の恐ろしさに触れた人々は多いだろう。

王座戦挑戦に向けて見せていた“衝撃の逆転劇”

 藤井は今期の王座戦、挑戦者になるまでの過程でも“衝撃の逆転劇”を見せている。挑戦者決定トーナメント準々決勝の村田顕弘六段戦である。

 この対局で序盤から冴えた将棋を見せたのは、むしろ村田六段だった。「村田システム」と呼ばれる独創的な戦型に、銀を中段に進める工夫を凝らした「シン・村田システム」を披露。これによって序盤からリードを奪い、中・終盤でも見事な指し回しを見せて勝利が間近に迫った。

 しかし、藤井が局面を複雑化したことで村田は長考し、持ち時間は徐々に減っていく。そして藤井が最終盤に「6四銀」という勝負手を放った。この一手が持ち時間がわずかになっていた村田の動揺を誘う。気づけば村田から見て「94%−6%」だった評価値が一気に「4%−96%」に。この逆転劇が藤井の八冠ロードを切り拓くターニングポイントとなった。

「用意した作戦がうまくいって、中盤以降も自分の形勢判断通りに指せていた。ただ優勢な将棋でも時間が残っていないと勝ち切れない」

 村田の語っていた対局の所感である。同じようなことが、図らずも王座戦決着局でも起きるとは……。

「藤井新名人の思考に驚きを隠せない」ワケ

<名言2>
32手先の未来が無限のようにある中で、藤井新名人はすでにそれをできていた。
(中村太地/NumberWeb 2023年6月10日配信)

https://number.bunshun.jp/articles/-/857747

◇解説◇
 将棋の展開には大まかに「序盤・中盤・終盤」という3つの段階がある。デビュー直後の藤井は詰将棋などで培った圧倒的な終盤力で勝ち星を伸ばしていったが、タイトル獲得までのプロセスでは、AI研究を活用しながら実戦で学ぶことで、序・中盤の能力もトップオブトップのレベルに引きあげられている。

 中盤における藤井の「思考に驚きを隠せない」と語ったのは、かつて王座獲得経験のあるA級棋士・中村太地八段である。

【次ページ】 「冴えに冴えわたった将棋」の内実

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