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藤井聡太と“神の一手”「評価値6%→96%の大逆転」「36分の一手=AIで1時間超解析して“ほぼ最善”」タイトル経験・対戦棋士が脱帽の理由
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/14 06:01
藤井聡太八冠の将棋で“恐るべき一手”を、棋士たちはどう見たか?
その代表的な一局は、「史上最年少で名人」を達成した第81期名人戦の開幕局の50手目だった。
それは藤井が107分の長考の末に「3五歩」とした一手だったが、その時間で藤井が考えていた中に「32手先の9八竜」があったそうだ。
「普通なら『竜を逃げてしまうようでは……』と考えて選択肢に入れず、読みを打ち切ってしまうもの。しかし藤井新名人はこの局面において、さらに1つ深い段階で読みを入れていたんです」
32手先と表現するが、それは“一本道”を考えていくのではなく、樹形図のように広がっていく膨大な選択肢の中で判断をしなければならない。
中村によると、対局相手の渡辺明前名人も20手ほど先の形勢判断を瞬時にできる能力が際立っていると評している。その判断力を持ちつつ、さらに多く・深くの局面を読もうとした感性に「藤井新名人の非凡さが現れたのです」と感嘆の声を上げていた。
「冴えに冴えわたった将棋」の内実
<名言3>
藤井さんが冴えに冴えわたった将棋と言っていいと思うんです。
(高見泰地/NumberWeb 2023年8月15日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/858387
◇解説◇
藤井のデビュー当時は“AI超えの一手”などと言った表現がキャッチーさを持ち、テレビなどでの報道で使われることがあった。かつては“人間かAIか”という見立てがあった故とも言えるが……現在、多くの棋士はコンピューターでの研究を用いて、自身の棋力アップにつなげている。
藤井将棋を自身の保有するコンピューターで内容を見直し、驚いたのは高見泰地七段だ。八大タイトルとなった「叡王」を手にしたことがあり、物腰柔らかく分かりやすい解説で人気を博する高見が「冴えに冴えわたった」と表現したのは、棋聖戦第3局のこと。当時の藤井は佐々木大地七段と棋聖戦、王位戦のダブルタイトル戦に臨んでいた中で、本局は藤井のエース戦法である「角換わり」で進んだ。