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「細かく厳しいが、ミスは追及しない」男子バレー・ブラン監督は日本をどう強くした? “右腕”伊藤コーチの証言「一緒に仕事ができて幸せ」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byYuki Suenaga
posted2023/10/08 17:37
2017年に日本代表コーチ就任、2021年東京五輪後から監督に昇格したフィリップ・ブラン(63歳)。見事にチームをパリ五輪へ導いた
今大会は2戦目でエジプトに敗れて崖っぷちに立たされたが、3戦目以降はそのブロックとディグが機能した。ブロックの脇を抜いたスパイクやフェイントをリベロの山本智大(パナソニックパンサーズ)を中心にことごとく拾って相手を追い詰め、ブロックと勝負してきたところを仕留めるという流れで、トルコやセルビアのエースを早々と交代に追い込んだ。
今年のネーションズリーグでベストディガーに輝いた山本は、もともと技術に長けていたが、加えて周囲に指示を出しコントロールする力が身についた。以前はあまりコート内で話すほうではなかった山本が変わったのはブランの言葉があったからだという。
「2019年のワールドカップの時に、『お前がディフェンスのリーダーになって、もっともっと動け』と言われて。コート内でコミュニケーションをとったり、『ここにブロック跳んで。こっちは絶対拾うから任せて』といった声も出せるようになったので、本当に感謝しています」
伊藤コーチ「分析方法が変わった」
五輪出場を決めた後、ブラン監督は「ディフェンスは我々の重要な武器。世界トップの一つといえる力がある」と胸を張った。
2014年から日本代表のアナリストで、現在はコーチを務める伊藤健士は、ブランが来てからの変化をこう語っていた。
「分析方法が変わりました。それまでは相手がAパス(セッターの定位置に正確に返った返球)の状況でのデータを重視していましたが、ブランさんの考え方は違って、Aパスでのトス配分なんて相手の守り方を見て試合中にいくらでも変えられる。セッターにストレスがかかっていないから。それよりセッターが前後や横に動いた時にどんな癖があるかが重要だと言われました。
セッターにストレスがかかった状況で、サーブレシーブがどこから返るとどうなりやすいとか、(セッターが)同じ前方向に動いたとしても、走った速度の違いや、ボールを捉える位置などによってどんな傾向があるかを見極めないといけない。だから数字に頼るより映像を見て判断する作業が増えました。その分めちゃくちゃ時間はかかるんですけど(苦笑)」
合宿中はもちろん、飛行機での移動中や空港のロビーでまで一緒に映像を確認したという。大変な労力だが、そうした時間を伊藤コーチは楽しそうに振り返る。
「フランスの代表監督もやっているし、ポーランドのコーチとして世界一にもなっている。そういうレベルの人がやる作業や分析の仕方を一番身近で感じられたので、僕にとっては幸せな時間でした。こんなにいい先生が一番時間を費やしてくれるんだから、バレーに携わる者としてこんなにハッピーなことはないですよね」
伊藤コーチは今では戦術の構築なども任されている。監督だけでなくスタッフ陣にも、バレーが大好きで熱く有能な人材が揃っていることも、このチームの強みだ。