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「もっと藤井さんと話せばよかった」男子バレー“パリ五輪切符”涙の舞台ウラ…どん底だったあの夜、チームを救った“もう一人の選手”
posted2023/10/08 11:30
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Yuki Suenaga
最後の1点まで、ワクワクした。
パリ五輪予選6戦目のスロベニア戦。2セットを先取した日本は、第3セットも24対18と終始、試合を優位に進めた。あと1点でパリ五輪出場が決まる――最後の1点をセッターの関田誠大は誰に託すのか。前衛の高橋藍か、西田有志か。パスが返ればミドルの山内晶大という選択もあるが、やはり最後はキャプテン石川祐希のバックアタックだろうか。
胸躍らせながら、その瞬間を待つ。
結末は、相手のミスだった。スロベニアのサーブがエンドラインを割る。25対18。どんな形だって構わない。結果だけが求められる五輪予選、選手たちは出場権を自らの力でもぎ取った。試合終了の笛の音もかき消されるような大歓声の中、コートに選手もスタッフもなだれ込んだ。
両手を突き上げ、飛び跳ね、笑顔で抱き合いながらも、涙を拭う。
一緒に戦った「背番号3」
2戦目でエジプトにまさかの敗退を喫し、予期せぬ逆境に追い込まれた。負けられないプレッシャーの中での戦いを乗り越えた安堵と喜び。
そして、涙の理由はもう1つ。
勝利の直後、五輪出場を称える簡易的なセレモニーがコートで行われた直後、選手たちが集合写真に応じる。
涙と笑顔が入り混じる中央にいたのは「3番 FUJII」。
2021年東京五輪に日本代表として出場したセッターで、今年3月、31歳で永眠した藤井直伸が着用したユニフォームだった。
石川、西田に続いてコートインタビューに立った高橋藍が声高に叫んだ。
「藤井さん、やったよー!」
大事な仲間と、共に戦い、勝ち取った。それぞれの、溢れる思いが込み上げた。