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「男子バレーはいいが、女子は厳しい」逆境に燃えた主将・古賀紗理那はチームをどう変えた? 五輪切符は持ち越しも「今は一緒に呼吸ができている」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2023/09/25 17:18
ブラジルに惜敗を喫し、パリ五輪出場権は来年に持ち越しとなったバレーボール女子日本代表。キャプテン古賀紗理那は悔しさを滲ませながらも、「希望があった」と振り返った
取り組むべき数えきれない課題にどこから手をつけるか。ボール練習で呼吸を合わせることも重要だが、まず着手すべきは互いが何を考えているのか理解すること。コミュニケーションを深めることに重きを置く中でも、古賀が一番といってもいいほど長く時間を割いて会話を重ねてきたのがセッターの関菜々巳(24歳)だった。
VNLを終え、休息の後に再び合宿が始まってすぐ古賀から関にこう切り出した。
「私はセナ(関)のトスを全部打つ。覚悟を持って合わせるし、絶対セナを1人にしないから、わからない時や迷った時は全部私に言ってほしい」
古賀とのコンビを合わせたい。関にとっても最重要と考えていただけに、そのひと言が心を軽くした。
「紗理那さんは『私のトスは本当に難しいと思う』と話すじゃないですか。アタッカーにそんなことを言わせてしまうことが申し訳なくて。だってもっと普通に上げられるセッターだったら、きっと簡単に決められるはずなんです。だから紗理那さんから『覚悟を持って合わせたい』と言われたことが本当に嬉しかったし、私も一緒に頑張りたい。覚悟を持って臨んでいたつもりだったけれど、その瞬間、もっと強い意味で本当の覚悟が決まりました」
理解して歩み寄るが、指摘は続ける
コンビ練習やゲーム形式の練習では、気になることがあればすべて言葉にして問題解決に努めた。たとえば点数を競り合う状況や、想定した攻撃が続けて相手のディフェンスに阻まれた時。思考回路がパンクし、「焦ってトスが低くなる」と関も自認していた。
それを最初から情報として頭に入れていれば、多少トスがネットに近く、速さ重視で低くなってもカバーすることができ、指摘することもできる。トスのせいにして「打てない」と不満を露わにするのではなく、「こういう状況も起こり得る」と理解したうえで準備する。もちろん古賀はその都度、短い言葉で修正点も指摘した。
「セナ、今のは低い。とにかく高さだけ、意識して」
関も古賀から指摘されるばかりでなく、自分の中だけで留めずに共有する。特に合宿中のゲーム練習では、タイムアウトや1セット終えるたびに関が古賀に尋ねていた。
「もっとクイックとバックアタックを活かしたいんです。どういうコンビがいいと思いますか?」
状況はその時々で変わるが、パターンを決めるのは悪いことではない。だから古賀も即答した。
「今のコンビ、今の組み立てで全然いいと思うよ。むしろこの攻撃は決定打になるから、最初に見せるんじゃなく、最後に持って行けばもっと効果的じゃない?」
常に焦った状況で攻撃を選択するのではなく、トスとアタックだけでなくその前段階、セットアップ時に少しでも余裕が持てるように。「パスはもう少し高めにして時間をつくろう」と提案したのも古賀だった。