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「男子バレーはいいが、女子は厳しい」逆境に燃えた主将・古賀紗理那はチームをどう変えた? 五輪切符は持ち越しも「今は一緒に呼吸ができている」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2023/09/25 17:18
ブラジルに惜敗を喫し、パリ五輪出場権は来年に持ち越しとなったバレーボール女子日本代表。キャプテン古賀紗理那は悔しさを滲ませながらも、「希望があった」と振り返った
意識と行動を変えた効果は明らかだった。今回の五輪予選では、VNLと比べてサーブレシーブの軌道が高く修正されたことで、関も余裕を持ってトスアップするシーンが目立った。時間的余裕が生まれれば、攻撃陣も一斉に助走へ入ることもできて選択肢も増え、結果的に一人一人が活きた。
象徴的なのがアウトサイドヒッターの井上と林琴奈だ。
五輪予選では古賀と井上が対角に入り、林は関の対角に入った。比較的守備的要素の強い林に対し、井上は攻撃の比重が高い。VNLではローテーションによって古賀と井上、それぞれがサーブレシーブに入っていたが、五輪予選ではすべてのローテーションで井上がサーブレシーブから外れる布陣を組み、その策が奏功したと古賀は言う。
「パスの負担がなくなって、攻撃に専念できるようになったからめちゃくちゃ生き生きしているんです。多少パスが乱れても『ハイセットは自分が決める』という意識で、ブロックがいてもどうにかしてくれる。打ち方もすごく工夫していて、チーム全体の攻撃が崩れなくなりました」
キャプテンも認める林琴奈という軸
さらにチームにとって不可欠なピースであったのが、林の存在だ。決して目立つわけではないが、サーブレシーブやライトからの攻撃のみならず、数字に残らない1本のフォローやサーブレシーブの質が向上した。「欠かせないどころかチームの軸」とまで古賀に言わしめる理由がある。
「すごく見せないのが琴奈のすごさ。サーブレシーブの範囲も、ローテーションによっては『ここは紗理那さん、バックアタック入って下さい』と言って自分が広げてくれる。だから私は正面だけ取って(攻撃に)入れるし、相手のティップ(軟打)もしれっと拾っているけど、味方にとってはファインプレーばかり。『琴奈が日本一だよね』と言ったら『そんなこと絶対周りに言わないで下さい、アンチが来るからやめて下さい』って言うんですけど(笑)、本当にすごい。琴奈のおかげで私もチームも活かされるんです」
自分自身の成長と、チームの成長を感じられる喜びは、プレーする姿からも伝わってきた。最たるは、開幕から4連勝で迎えたベルギー戦。大会前から大一番と位置付けていた3連戦の初戦もストレート勝ちで連勝を5に伸ばした直後のミックスゾーンで、古賀の声は弾んでいた。
「こんなに順調だとは思いもしませんでした。私たちの力がついたと思いませんか? 試合をしながら、戦うたびにそう思うので、今日の選手ミーティングでも最後に言ったんです」
劣勢でも勝てているのは自分たちの力だから、自信を持って行こう。
日本代表の主将になり2年目のシーズン。強さや成長を実感できる今が「一番楽しい」と笑顔で続ける。
「組織的に動けているし、組織的にオフェンスできている。だから劣勢でも落ち着いているんです。コートの中がすごくいい感じで、一緒のタイミングで呼吸ができている感じがする。こんな感覚は、初めてですね」