野ボール横丁BACK NUMBER
「サインばれているのかな」仙台育英“じつは超不利だった”日程・相手…あの決勝前、須江航が初めて吐いた弱音「エネルギーが尽きてきました」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/09/04 11:05
仙台育英を率いる須江航監督
仙台育英の日程的な不利は、2回戦以降も続いた。準決勝まで、第4試合、第1試合、第4試合、第1試合と、早い時間と遅い時間の試合が交互に続いた。
第1試合も第4試合も気温が比較的低いため、体への負担は小さいと言われる。ただ、第4試合は開始時間が読めないのと、ホテルに帰る時間が遅くなるため、体を休めるという意味ではなかなか難しい面もある。
「大ラッキー」と言い切った須江監督
今年の仙台育英の日程は、暑い時間を避けられるというメリット以上にデメリットの方が大きいように思われた。
しかし、そんな不運も須江はこう言って笑い飛ばした。
「去年から続く大ラッキーなんですよ。去年は全部、第1試合。今年は初戦も開始が遅れたので実質、第4試合のようなもので。あとは全部、第1か第4ですから。暑い時間帯の試合が1試合もなかったんですよ」
確かに、昨年の仙台育英は恵まれていた。2回戦からの登場というのも有利に働いたことだろう。日程に関して言えば、去年と今年では雲泥の差がある。しかし、須江は、それを「去年から続く大ラッキー」と称した。
そんな度が過ぎるほどポジティブな男が、準決勝を終え、思わずこぼしたのが冒頭の「エネルギーが尽きてきました」という本音だった。
いま思う「準優勝」の価値
今年の仙台育英は乗り越えなければならない相手チームも険しかった。1回戦から浦和学院、聖光学院、履正社、花巻東、神村学園、慶応と、名だたる強豪や勢いに乗るチームばかりだった。
しかも前大会王者ということで当然、マークも厳しかったはずだ。それに対しては須江も「どのチームも情報をすごく持っている。試合の中でも、サインがばれているのかなと思うこともあった」と苦心していた。
慶応の優勝は掛け値なしの快挙だった。だが、この条件下における仙台育英の準優勝は、少なくともそれと同等の偉業だった。
決勝で敗れたあと、須江に、どんなに疲れていても囲み取材で嫌な顔一つせずに対応できるのはどうしてなのかと聞いた。すると、間髪入れずにこう返された。
「疲れてないからです」
そのときはもうすでにいつもの須江に戻っていた。