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「私は丸刈りが好きだ」前時代的“だから”好きだった金足農、それでもナゾな髪の強制…なぜ高校野球の髪型論議はズレるのか?「経験者の告白」
posted2023/09/03 17:01
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Nanae Suzuki
正直に告白すると、私は丸刈りが好きだ。三十数年前、中学、高校時代は野球部に所属し、強制的に丸刈りにされたときも、何の不満もなかった。野球をやるということは、そういうことだと思っていた。
大人になってからも、よく丸刈りにしていた。楽だし、自分でできるし、やはり、どこかカッコいいとも思っていたのだ。
ハッとした“ラグビー名将の問い”
そんな私が高校野球における丸刈りに初めて疑問を持ったのは2018年、第100回大会を迎えたときだった。野球以外の高校スポーツの名指導者に高校野球を語ってもらうという企画で、東福岡高校ラグビー部の監督である藤田雄一郎にこう問われた。
「高校野球って、なんで丸刈りなんですか? うちは丸刈り禁止です。髪を切ったら頭を守れないじゃないですか。昔は高校ラグビーでも丸刈りにしている高校がけっこうありましたけど、今はもうほとんど見かけない。高校野球だと、髪を伸ばしていることが悪みたいな印象がありますもんね。負けたら、髪なんか伸ばしているからだって言われそう。大変ですね……」
藤田は「花園」と呼ばれるラグビーの全国大会でこの冬を含めて3度、優勝に導いた名コーチである。
私は藤田にそう尋ねられ、完全に言葉に詰まってしまった。慣れとは実におそろしいもので、誰もが抱きそうな疑問なのに、そのことについて一度も考えたことがなかったのだ。あまりにも「野球部=丸刈り」というイメージが当たり前になり過ぎていて、まるで絵の中の変わらぬ景色を眺めているような感覚になっていた。
丸刈りか否か…は問題ではない
それからというもの、機会があれば高校野球の指導者に同じ質問をした。なぜ、丸刈りなのでしょう、と。だが、合理的な回答を得られたことは一度もなかった。ある監督には「中村さんも坊主じゃないですか」という、的外れな言葉を返された。