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「練習1日50分、月曜日は完休、部員は全員元投手」…で甲子園って行ける? 人気漫画家が取材で感じた「高校野球、練習“量”と“質”どっちが大事か」問題
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byクロマツテツロウ/Tadashi Hosoda
posted2023/08/15 17:01
漫画『ベー革』でサガユリの超合理的野球部を率いる乙坂監督(左)と作者のクロマツテツロウさん(右)
「練習の『量』は捨てて『質』を突き詰めているので、当たり前なんですけどやっていることがめちゃくちゃ高度なんです。普通の高校生では理解できないレベルのことをやっている。『練習の効率化』と一言でいうけれど、そのためには『この練習は何の意味があって、何の狙いがあるのか』『そのためにいまどう自分の体が動いているのか』というのを認識できないといけない。しかも、それを監督との間で言語化してやりとりしなきゃいけないわけです。それができる高校生って多分、ものすごく少ない。
めちゃくちゃ頭の良い選手やカンの良い選手にとっては非常に魅力的で、ものすごく伸びる環境だと思います。でも、高校生なんでそういう選手ばかりではないわけです。いかに理論が進んでいたとしても、それを理解して飲み込んで、実践に移せる選手っていうのは本当に一握りなんですよね」
「合理化」は革新的。でも……絶対的な正解ではない?
効率化や合理化が神格化されがちな現代のスポーツ界だが、どの世界にも万能薬はない。むしろその「超合理的指導」というハードルを越えられる選手は、昭和の根性練習に耐えられた選手よりもさらに少ないのではないか――そんな風にクロマツさんは感じたという。
「言い方は悪いんですけど『やらされる練習』ってめちゃくちゃ楽なんですよ。で、そういう風に言われたものをやらされている中で、よくわからないうちにだんだん筋力がついて、打てるようになって、野球そのものも楽しくなってくる。効率的ではないけれど、高校生だとそういうケースの方がむしろ多いと思うんです。他にもバントとかは反復練習を愚直にやって『量』をこなさないと絶対に上達しない。
だから作中でも、意識的に主人公のチームがやることが“絶対的な正解”とは描かないようにしています。結論的には指導法が合うかどうかは人によるわけですから。指導者だってそこで悩むし、あくまで考え方や与えられた条件の違いの差だと思っています」