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「あ、僕たちでも勝てるんだ」履正社“史上最強”への道は大阪桐蔭との“宿命の一戦”から始まった…「打倒奥川」で果たした夏の甲子園制覇
text by
釜谷一平Ippei Kamaya
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/07 17:07
2019年夏の甲子園決勝でエース奥川恭伸を擁する星稜を5-3でくだし初優勝を飾った履正社ナイン
「桐蔭に勝てたことは自信になりました。『あ、僕たちでも勝てるんだ』と。そこから全国の舞台を本気で意識するようになったと思います」
だが翌2019年の春、意気込んで臨んだセンバツでは初戦で星稜に完敗。相手エース奥川恭伸(東京ヤクルトスワローズ)に17三振を喫する完封負けだった。無安打2三振に終わった池田が振り返る。
「一番トップを見ました。見たことのないスピードにキレ。今までの相手とはボールの威力が全然違う。これがプロへいく投手で、こういう投手を打たないと甲子園で勝てない。自分にもチームにも『奥川』が一つの基準、イメージとなって、もう一度夏に向けて入れたのかなと思います」
「打倒奥川」から”夏の甲子園”初優勝
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選抜後、チームは「打倒奥川」を念頭に打撃力を磨くと、夏の大阪大会を制し、履正社史上初となる春夏連続甲子園出場を果たす。さらに甲子園では春に辛酸を舐めた打線が爆発し、全試合2ケタ安打。池田も「負ける感じが全くなかった」と述懐する記録的猛打で勝ち上がっていった。
そして迎えた決勝、星稜との宿命的な再戦で、履正社は奥川を見事に打ち込んだ。池田は1回、奥川に大会初となる長打(3塁打)を浴びせたほか、3回にも二死から際どいコースを見極めて四球をもぎとる。この四球が、井上の逆転3ランに繋がった。追い込まれても自信に溢れ、平然と四球を選ぶ姿は、まるで1年前、大阪シティ信用金庫スタジアムでボールボーイの彼が脳裏に焼き付けた大阪桐蔭の選手たちのようだった。
履正社は近年久しく大阪桐蔭と並ぶ「大阪2強」と目されてきたが、唯一足りなかったのは「夏の実績」。最も欲しかった結果を手にし、履正社高校野球部が新たなステージに立った優勝であった。
過去4校しかない「春夏連覇」に挑戦
2019年秋、日本一の興奮が冷めやらぬ中、池田は最上級生となった。新チームは甲子園で“優勝投手”となった岩崎峻典(東洋大)、サード小深田、セカンド池田ら前チームの主力メンバーに、同じくベンチ入りしていたキャッチャーの関本勇輔主将ら投打の主軸が多く残っていた。「次は俺たちの番だ」と乗り込んだ秋季大阪大会で準優勝。近畿大会もベスト4で、あれよの間に2年連続のセンバツ大会出場を確定させた。
池田は、新チームで副キャプテンを務めることになった。
「目標は夏春連覇。『自分たちならできる』とずっと言ってきましたし、甲子園を知る小深田と二人で引っ張って、一つ一つのプレーを妥協しないよう、周りにも徹底して厳しく言いました。甲子園で勝つのはそんなに甘いものじゃない。グラウンドで部員とぶつかることもありましたが、直接言い合ってその場で解決することで、強くなれると思っていました」
履正社を率いて33年になる岡田龍生監督(当時)も、センバツへ向け確かな手応えを感じていた。年明けから続いた大会用の取材でも「夏春連覇へ挑戦できる権利を持っているのはウチだけ。選手たちに優勝してもらえるような環境を整えてやりたい」と過去4校しかない偉業への意識を隠さなかった。
もともと池田らの学年は、入学時から粒が揃っていた。池田や小深田、関本らの他にもU-15日本代表の両井大貴(関西学院大)、ボーイズリーグ関西選抜の中原雄也(日本体育大)、大西蓮(JR東日本東北)、田上奏大(福岡ソフトバンクホークス)……特に攻撃力が光っていた。
多田も証言する。