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「あ、僕たちでも勝てるんだ」履正社“史上最強”への道は大阪桐蔭との“宿命の一戦”から始まった…「打倒奥川」で果たした夏の甲子園制覇
posted2023/08/07 17:07
text by
釜谷一平Ippei Kamaya
photograph by
Hideki Sugiyama
*この記事が書かれたのは2022年秋です。肩書などは当時
「甲子園を奪われた」球児たち
「僕は2年生の夏に甲子園で優勝という景色を見させてもらえました。次は、まだ甲子園に出ていない同学年の仲間たちともう一回、ああいう思いをしたい、もう一度優勝したい。そう思い描いて毎日練習していました。でも、そこを目標にする権利さえ奪われて……。あの報せがあった夜は、家を出て散歩に行きました。現実感があまりなくて、頭がボーっとしていました」
2022年秋、東京都府中市にある明治大学硬式野球部合宿所、通称「島岡寮」の応接室。「紫紺」の歴史を物語る写真やレリーフに囲まれながら、池田凛(明治大学2年)が喪失の記憶を辿る。甲子園が消えた春と夏から2年あまりだが、時折潤ませる瞳が、未だ痛みが癒え切っていないことを示している。
2020年、全世界で猛威をふるった新型コロナウイルスに翻弄され、「甲子園を奪われた」高校3年生の球児たち。前年夏に甲子園を制覇した履正社高校野球部も、例外ではなかった。連覇に挑戦できる唯一のチームであった彼らは、事実をどのように受け止め、高校野球をどのように締め括ったのか?
あらためて、彼らが過ごした高校3年間を振り返ろう。嵐のような、と形容したくなるその3年間は、コロナ禍以前――最大のライバルを追い詰めた「宿命の一戦」から始まった。
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うだるような暑さと、背中を伝う冷汗がよみがえる。2018年7月27日。大阪シティ信用金庫スタジアムで行われた選手権北大阪大会準決勝は、野球の醍醐味を詰め込んだ、大阪の高校野球の縮図とも言える一戦だった。履正社の相手は根尾昂(中日ドラゴンズ)、藤原恭大(千葉ロッテマリーンズ)を筆頭に4人が秋のドラフトでプロに指名された“最強世代”の大阪桐蔭。下馬評では、選抜を制し6年ぶりの春夏連覇をめざす大阪桐蔭の圧倒的有利が伝えられていた。
しかしその舞台で、今も語り継がれるドラマが待っていた。