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「将棋に巡り合えたのは運命だったのかな」藤井聡太14歳が語っていた“天才少年の使命感”「強くならないと見えない景色がある」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byTadashi Shirasawa
posted2023/06/23 11:01
藤井聡太7冠が獲得した初めてのタイトルは棋聖だった。初戴冠までの“天才少年”の歩みを記者が振り返る
「……将棋を指すために生まれてきたかは分からないですけど、将棋に巡り合えたのは運命だったのかなと思いますし、将棋を突きつめていくこと、強くなることが使命……使命までいくかわからないですけど自分のすべきことだと思います。強くならないと見えない景色があると思うので、立てるように頑張ります」
「将棋って……深いゲームなので、ものすごく強くなれる余地はあると思っています。将棋に対する思いはずっと変わらないです。指したくないとか、駒に触れたくないとか思ったことは一度もないです」
「世間の方からすると『もうコンピュータに勝てないの?』と思われるかも知れませんけど、いずれは他の分野においてもそのような時代は来ると思います。コンピュータの方が強くなった時、棋士の存在意義が問われてくると感じます」
熱狂の年の終わりに目撃した藤井の運動能力
14歳の端正な言葉に驚かされつつ、どこか羽生善治に似た空気を持った人という印象を抱いた。よく笑い、リアクションはいつも楽しげだが、守るべき領域について自覚的でもある。歓迎的でありながら、どこか適切な距離を保とうともしている。
直後から29連勝への狂騒が始まる。望外、僥倖、茫洋、奏功、幾年、白眉、拘泥。語られる言葉はメディアの標的となった。中学3年生から「子供の時分に」と聞いた時は心底唸った。
列島全体を巻き込む騒乱の中心にいて、いつも涼しげな顔をしていた。新記録達成の瞬間、対局室でスクラム状態となったメディアが怒号を飛ばし合っても、彼の視線は盤上から動かなかった。