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羽生善治は藤井聡太20歳の将棋をどう見ている? 「棋譜を見れば伝わってきます」「32歳差ですか。だいぶ離れてはいますけど…」
posted2023/01/08 11:01
text by
高川武将Takeyuki Takagawa
photograph by
Kiichi Matsumoto
羽生が抱く無力感「何のためにやってるのかな」
――昨年沢山負け続けて得たものは何ですか。例えば、負けることの意味とは?
しばし考えを巡らした羽生は、やはり意表を突いた答えを返してきた。
「何のために将棋を指しているのかなって考えることは結構あります。AIが何百万、何千万局も指している中で、人間が何のためにやっているのか。よく考えますね」
これまで何度も話を聞いてきたが、振り返れば、なぜ闘い続けるのかというたった一つのことを聞き続けていたような気がする。羽生はよく言ったものだ。
『闘うものは何もないんです。勝つことにも、将棋を指すことにも意味はない。だから突き詰めちゃいけない』
その突き詰めてはいけない将棋を指す意味を、羽生は考えることが増えたという。
「将棋を究める作業で言えば、人間が一生でできる将棋はたかが知れている。大きいPCを使ったら一日くらいで、一生分のシミュレーションができちゃう(笑)。だから、何のためにやってるのかなって。
局面について考えていると、必然的にそういうことを考えるんですよ。(思いついた手が)これ、AIで検索済みなんだろうなとか、AIの枠組みに入ってるんだろうなとか。またすぐその外側をふらふらしてみて、どこに行けばいいんだろうって(笑)」
人間だから見つけられて、AIには見つけられない場所
真っ暗な宇宙を一人泳ぎ続ける羽生、目指す先には小さな光があると信じて――。苦しいはずの話をさも楽しそうに話す姿を見ながら、脳裏に浮かんだのはそんな光景だった。何のために人間が将棋を指すのか……。すると彼は、何かを思いついたように力強い口調で話した。