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「将棋に巡り合えたのは運命だったのかな」藤井聡太14歳が語っていた“天才少年の使命感”「強くならないと見えない景色がある」 

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北野新太

北野新太Arata Kitano

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photograph byTadashi Shirasawa

posted2023/06/23 11:01

「将棋に巡り合えたのは運命だったのかな」藤井聡太14歳が語っていた“天才少年の使命感”「強くならないと見えない景色がある」<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

藤井聡太7冠が獲得した初めてのタイトルは棋聖だった。初戴冠までの“天才少年”の歩みを記者が振り返る

小さい声で告げた「今は将棋しかしていません」

 2016年9月、三段リーグ最終日。加藤一二三の記録を62年ぶりに更新する14歳2カ月の史上最年少棋士が誕生した。棋史における一大事件だったが、将棋会館内の空気は日常と大きくは変わらなかった。サックスブルーの半袖ボタンダウンシャツが似合う中学2年生は初めて大人たちに囲まれる会見に臨んだ。

 声は全く聞こえなかった。理由は明快で、今よりもっと声量が小さかったことと、手に持ったマイクと口元が50cmくらい離れていたからだ。

「昇段できたことは素直に嬉しいです。勝った瞬間は実感がなかったですけど、だんだんと湧いてきています」

「今は将棋しかしていません。将棋は自分の一部みたいな感じです」

 ふと気になって「14歳で棋士という職業に就く。自分をまだ子供と思うか、あるいはもうすぐ大人になると思うのか」と少々複雑なことを聞くと「えー……いや、ちょっと難しいです……」と困り顔になった。そんなこと考えたこともなかっただろうし、考える必要もなかっただろう。

巡り合えたことは運命。強くなることが使命。

 クリスマスイブのデビュー戦で62歳上の先駆者を破ったまま敗北を知らず、どうやら常識的な天才の規格ではないと証明され始めた。初めてのインタビューは2017年5月、デビュー14連勝を飾った翌朝だった。将棋会館前の緩い坂道を下ってくる少年は、青空より鮮やかなスカイブルーのデイパックを背負っていた。

【次ページ】 熱狂の年の終わりに目撃した藤井の運動能力

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