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「将棋に巡り合えたのは運命だったのかな」藤井聡太14歳が語っていた“天才少年の使命感”「強くならないと見えない景色がある」

posted2023/06/23 11:01

 
「将棋に巡り合えたのは運命だったのかな」藤井聡太14歳が語っていた“天才少年の使命感”「強くならないと見えない景色がある」<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

藤井聡太7冠が獲得した初めてのタイトルは棋聖だった。初戴冠までの“天才少年”の歩みを記者が振り返る

text by

北野新太

北野新太Arata Kitano

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Tadashi Shirasawa

 今月1日、名人位を獲得し、史上最年少で7冠に到達した藤井聡太、20歳。7冠のうち、最初に手にしたタイトルが現在、防衛戦を戦っている「棋聖」だった。「天才少年」をデビューから追いかけ続けた記者が、17歳の夏、初戴冠までの3年8カ月を振り返る。<全2回の第1回/後編は#2へ> 
※初出は2020年9月3日発売、Number1010号「<最年少二冠の輝き>藤井聡太 天翔ける18歳。」、肩書は当時のまま

 誰かのクラクションが通りに響いて、栄光の声と重なった。

「獲得できたことは……」。藤井聡太は一瞬の雑音の中で囁いた。将棋の神に託された文言を読み上げるように。

「非常に嬉しいです。渡辺先生と五番勝負で対局して非常に勉強になったので活かしていきたいです。今はまだ実感がないというのが正直なところですが、責任ある立場になりますので、より一層の精進をして良い将棋をお見せしたいと思います」

700万人に達する人々がオンライン観戦

 あらゆる「最年少」の頂を制した旅の終章に、三冠を持つ渡辺明に挑んだ棋聖戦五番勝負にも決着の時が訪れた。7月16日、棋聖戦五番勝負第4局。大阪市の関西将棋会館4階記者室に陣取った一般報道陣には、天井の向こう側にある5階の対局室「御上段の間」への入室は禁じられていた。

 反撃に転じた藤井の駒は左右からの挟撃を実らせ、渡辺の王将は袋小路で身動きが取れなくなった。終局が迫ると人々は蠢き、現場は圧倒的3密空間に陥った。

 午後7時11分。渡辺が投了を告げても、中継映像を凝視しながら音声に耳を傾ける以外に両者の声を聞く手段はなかった。ところが、会館前の幹線道路「なにわ筋」を走る何者かのバイクが甲高いクラクションとアクセルの爆音を鳴らしたせいで歴史的な談話は危うく掻き消されそうになった。

棋士が持つ可能性について問うと…

 新しく頂点に立った棋士は街の風景を変え始めている。新棋聖としての初めての言葉を発している時、会館は見渡す限りの出待ちファンによって包囲されていた。700万人に達する人々は、凛とした和装をした17歳の前傾姿勢を画面越しに見守っていた。ワイドショーのディレクターは盤上技術を伝える困難よりも、出前内容を詳報する安易に翌朝の狙いを定めていた。

 3日後には18歳の誕生日を迎える高校3年生は静的な世界を再び動的に変えていた。

 感想戦後の会見は、藤井に何かを尋ねられる唯一の機会だった。質問の権利は各社1問。渾身の勝負手が求められた。何度目かの笑顔がこぼれた後、タイトルを得た夜に聞こうと決めていた問いを投げ掛けた。

【次ページ】 盤上、物語、不変、価値、自分自身で伝える

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