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藤井聡太は張本智和のサーブを鋭く打ち返した…張本が驚いた、藤井聡太の“正解を見つけ出す力”「訪れてみたい国は?」「平成最大の出来事は?」答えは…
posted2023/06/23 11:02
text by
北野新太Arata Kitano
photograph by
Tadashi Shirasawa
前編に続き、藤井の盤外での姿から後編は始まる――。<全2回の第2回/前編は#1へ>
※初出は2020年9月3日発売、Number1010号「<最年少二冠の輝き>藤井聡太 天翔ける18歳。」、肩書は当時のまま
新聞用の対談として、卓球場での張本智和との初々しい時間を終えた時、1学年下の日本代表選手は「藤井さん、ちょっといかがですか」とラケットを渡した。驚かせようとする東京五輪金メダル候補のサーブに藤井のフォアハンドストロークは何度も空を切ったが、10球ほど繰り返していくと信じ難い光景が展開されるようになった。
鋭角というよりほぼ直角に変化するサーブに対応し始め、やがてレシーブは張本側のプレーイングサーフェスに返るようになった。フォームは当然不格好だったが、ボールは鋭く、眼光は将棋盤に臨む時と一緒だった。生来の負けず嫌いだけが理由ではないと思った。目の前に現れた課題に対し、最善の成果を得るために考え、工夫したからだと思えた。張本は「藤井さん、すごいですね」と目を丸くしていた。
訪れてみたい国、その答えは…
インタビューを重ねる中でも、おざなりな言葉を選ぶことは一度もなかった。時には長考も厭わず、本当の答えを探した。「明日、目覚めて世界から将棋が消えてしまっていたとしたらどうするか」と尋ねると「自分の頭の中にルールが残っているなら頭の中で考えます。あとはプログラミングを学んで将棋のソフトを作れたらいいなと考えると思います。一人だけではさみしいので」と笑った。
興味本意で「訪れてみたい国、街、場所は」と聞くと、中盤の難所を迎えたような長考に沈んだ。後日メールで回答が来た。
「難しいですが、敢えて挙げるなら未来です。場所ではないですが(笑)。テクノロジーの進歩によって社会がどう変化するのか見てみたいです」
(笑)入りの返信はできなかった。彼の両眼に映っているであろう未来は、自分に見えている世界とはあまりにも遠かった。
人間の方が深く読める局面もある
大抵は勝って、時々は負ける日々を続けていく中、美学よりも絶対性を追求する棋風に変化していったが、歴史に残る名手を生み出すことは変わっていない。
革命的新戦法や新手を創出した棋士に贈られる升田幸三賞を弱冠16歳にして受けた一手こそ最高傑作と評されている。2018年度の竜王戦5組決勝・石田直裕戦の最終盤で披露した飛車切りの一手から「AI超え」と表現されるようになった。