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プロ野球スカウトがホメる「私には“大きな吉田正尚”に見えました」“ドラ1候補”佐々木麟太郎(花巻東)、高校通算ホームラン歴代1位の評価
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/12 17:14
今秋のドラフト有力候補、花巻東高の佐々木麟太郎(内野手・184cm113kg・右投左打)。高校歴代トップのホームラン通算記録を134本まで伸ばしている
一時、球界には「後ろ腕で押し込む」なるバッティング理論が流行った時期があったが、後ろ腕で押し込む前の段階として、引き腕(投手寄りの腕)でバットを引き出して、ヘッドを走らせる動きを作る打者がいる。ヘッドを十分に走らせてから、後ろ腕で押し込むというスイングの連動である。
ボールをバットに乗せて運ぶ……それが、佐々木麟太郎のバッティングスタイルだ。
両翼92m、センター120mの小牧市民球場。標準的な大きさだが、外野スタンドは地方球場サイズ。佐々木麟太郎の打球は、こともなげに、そのささやかな外野スタンドを越えていってしまう。場外弾といえど、甲子園球場でいえば、「ライト中段」ぐらいの飛距離が、ホントのところだろう。
「次のボール、怖いぞ…」
その2弾のあとの左中間フェンス直撃の二塁打は、この日の強風が影響したようにも見えたが、もっと驚いたのは、第2試合の第2打席、愛工大名電高の2年生左腕・大泉塁翔(171cm68kg・左投左打)から左中間スタンド場外に叩き出した3弾目だ。
この打席、佐々木麟太郎は、まず頭のあたりにカーブの抜けたボールをもらっていた。次のボールに踏み込めるかな? と見ていたら、速球を空振りしたその猛烈なフルスイングは、右の腰が全く逃げていない。
逆に、もう内(インコース)はない……と読んで、決然と踏み込んでいる。
「次のボール、怖いぞ……」
思わずつぶやいていたその瞬間、今度は左中間上空に高々と白球が飛翔して、やはりスタンドの向こうへ消えていった。
腰が抜けるほど驚いた。悪いボールじゃなかった。しっかり指にもかかって、140キロ近く出ていたはずの速球だ。
スタンドが静かになってしまう。私自身が高校球児の頃から、かれこれ50年ほど高校野球を見ているが、高校生の左打者が左中間へ、「打った瞬間!」なんてホームランはなかなか思い出せない。
この一弾、ただの「133本目」じゃない。これこそ、バットマン・佐々木麟太郎の才能が、見事に凝縮された一発と見た。
愛工大名電とのこの試合、名電打線が爆発して、前半で大差がついていた(結果6対25)。台風の中で遠くまでの遠征、暑い日差しの中のダブルヘッダー2試合目……若くてエネルギッシュな球児たちにも、疲れが見えて当然の状況。警戒されてきびしいボールの続く中の、わずかな失投を、それもひと振りで期待通りの結果に結びつける彼の「集中力」には、頭が下がる。
さらに、頭付近の投げ損じのボールに全くひるむことなく、逆に、外のボールに狙いを絞って待ち構えた「勝負根性」。
笑顔になれば、まだあどけなさの残る高校3年生だが、その内面は、立派に「闘える男」になりつつある。
清宮幸太郎との“決定的な差”
佐々木麟太郎がまだ1年生で、稀代のスラッガーとしてその片鱗を見せ始めていた頃の話だ。
「監督、またもう1人、メジャーリーガーの誕生ですね」