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「真実は自分で探求する」イビチャ・オシムが語っていた名将の条件とは?「リスクを冒しながらトライできるように」「日本の監督の問題は…」

posted2023/05/09 17:02

 
「真実は自分で探求する」イビチャ・オシムが語っていた名将の条件とは?「リスクを冒しながらトライできるように」「日本の監督の問題は…」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「名将とは何か?」について、生前語っていた元日本代表監督のイビチャ・オシム。インタビューは自宅で2時間以上に及んだ

text by

田村修一

田村修一Shuichi Tamura

PROFILE

photograph by

Takuya Sugiyama

 イビチャ・オシムが亡くなって1年が過ぎた。生前、数々の機知に富んだ言葉や発想、哲学を遺していたオシムの名将たる所以とはーー。彼はそのやり方をどこで身に付け、 いかにして実践に移したのか。日本サッカー界に次なる名将を生むための、いまだ色褪せない方法論を語り尽くしたロングインタビュー [名将への道] 「若き指導者のための10カ条」(NumberPLUS「イビチャ・オシム 日本サッカーへの遺言」掲載/2022年6月発売)を一部抜粋して公開します。
【記事全文は「NumberPREMIER」にてお読みいただけます】

◆◆◆

「アドバイスするようなことは何もない」

 日本の若い監督やリーダーたちに、指針となる助言をしてほしいと求めると、イビチャ・オシムは彼らしい誠実さと素っ気なさでこう答えた。

「すべてはすでに書かれている。いつ、どうやって監督を始めるか。どんなスキルが必要か。監督になろうとする人々は、そういうことをすでに知っている。監督教育はそこまできている」

 その通りだろう。だが、オシムといえども、はじめから"偉大な"という形容詞がつけられる監督であったわけではない。若かりしころ、たとえば現役引退直後に監督をはじめたFKジェリェズニチャルの時代には、さまざまな苦悩や試行錯誤があったはずだ。そうした経験を経て、いかにして今日の方法論を確立したのか。独自な発想の源はどこにあるのか。それが聞きたかった。

「ジェーリョ(ジェリェズニチャルの愛称)でどれだけ馬鹿なことをやったのかを、話せというのだな(笑)」

 その言葉とともに、オシムは自らの監督論を語り始めた。彼が監督業を始めたサラエボの地での長いインタビューは、こうして始まった。

「私が選んだのではない。彼らが私を選んだのだ」

ーーまず、監督という第2のキャリアを始めるにあたり、何か新しいことをやろうという思いはありましたか?

「クラブの目標は1部残留だった。1部に復帰したばかりだから、誰もが残留を望んでいた。もっとも、ジェーリョの監督になったのは、他に仕事がなかったからだ。選手を引退して、普通の生活をするためにサラエボに戻ってきた。それだけのことだ」

ーー野心はなかったのですか?

「ない。私はここに、何かをしにやってきたわけではない。全能の存在として、迎えられたのでもない。来たのは仕事を得たからであって、それを正しく全うしようと思ったからだ。さらに何かができることに気がついたのは、1部残留を実現した後だった。その後のグラーツでもジェフでもそれは同じで、ナビスコカップのタイトルを取るために、ジェフの監督になったわけではない。

 日本に行って驚いたのは、シーズン前にJ1の全クラブの監督が、優勝を目指すと言っていたことだ。そうではなくて、結果を得てうまくいけば、さらに上を目指す。それが本来のやり方で、いきなりチャンピオンを獲得するためにここに来たというのは正しくない」

ーーそれはあなたが、小さなクラブばかりを選んでいるからではないですか?

【次ページ】 「レアルで私が何をするんだ? 憂鬱になるだけだ」

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イビチャ・オシム
ジェフユナイテッド千葉

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