ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
「いずれベイスターズでプレーすると思っていた」バウアー獲得の立役者が明かす“電撃加入までの舞台裏”「天丼や海鮮丼を箸で食べる姿に…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/05/03 20:00
5月3日、1軍戦初登板で見事勝利を挙げたバウアー。MLBのサイ・ヤング賞投手がNPBデビューを飾るまでには4年間にもわたるストーリーがあった
本当に獲れる可能性があるのならば、ぜひ行きましょう!
正式に1月13日にバウアーはFAとなり、その後、壁谷氏を中心にバウアーの共同代理人であるジョン・フェッテロルフ氏とレイチェル・ルーバ氏と交渉が始まった。とくにフェッテロルフ氏と壁谷氏は旧知の仲であり、スムーズなコミュニケーションがとれたという。懸念されていたDVの疑いは、証拠不十分による不起訴ということでクリアになっていた。
ただ、交渉を始めるにしてもまずはDeNAの役員会から承認を得なければならない。ここはスピードが勝負となったが、木村洋太球団社長や萩原龍大チーム統括本部長に獲得に向けて本格調査や検討をすべきだという旨を伝えると「本当に獲れる可能性があるのならば、ぜひ行きましょう!」と返事をもらい、役員会に働きかけ早々に承認を得ることができた。
ひとつ訊きたいことがあった。バウアーはFAになってからなかなか去就が決まらない時期がつづいていたが、DeNAに対し“逆オファー”みたいなものはあったのだろうか。
そう問うと、壁谷氏は「一切ありませんでした」と、首を振った。
「とにかく我々としては、FA後に交渉を開始し、積極的に口説いた、ということだけですね」
交渉におけるプレゼンテーションの資料は70ページ以上にも及んだ。バウアーほどの大物である以上、交渉は難航を極めたと想像するが、ネックになった部分はあったのだろうか。
今までしたことのない提案
「代理人と話すと、正直トレバー自身、まだNPBでプレーするには早いという思いはあったようです。しかし我々としては、ベイスターズに来たら野球の面ではもちろん、ビジネス面においてもメリットがあることを丁寧に伝えていきました。一緒にこういうことをやりたいんだ、と今までしたことのない提案をたくさんぶつけました」
キーフレーズは“コラボレーション”。外国人選手獲得交渉において、そのメインとなるのは金銭などの条件面だが、バウアーの場合はそれ以外の“付加価値”をつける必要があった。
「すでに発表していますが、マーチャンダイズ(MD)の部分で、彼の持つアパレルブランドである『Bauer Outage』とコラボレーションをしたり、球団初の個人ファンクラブの設立をすることなどですね。また彼は『MOMENTUM』というドキュメンタリー制作会社を作って自らYouTubeで野球の魅力を発信することをライフワークにしているのですが、我々も『FOR REAL』や『BBB』といった野球の裏側を描くドキュメンタリー作品を作っているので、そういった部分に理解がある点でも興味をもってくれたと思いますね」
役員も含め球団総力戦の交渉
基本的に窓口は壁谷氏だったが、萩原本部長をはじめ、オールベイスターズでの交渉でもあった。