このラウンドの中盤以降、2ラウンドに続いて僕がゴロフキンを追いかけ回すような展開になった。明らかに僕のプレスが効いている。とりわけ右ボディーは効果的だった。

　ゴロフキンは背中を丸め、ガードを下げてまでボディーを打たれまいと必死だ。そんな相手に、この回の最後も僕が左右ボディー、右ストレート、右アッパーをたたみかけて終了のゴングが鳴った。ゴロフキンの苦しそうな様子が手に取るように分かる。このラウンドも僕が取った（ジャッジは3者とも僕の10―9だった）。

勝てる試合だったなあ

　3ラウンドまで映像を見終えたとき、頭に浮かんだのはこんな思いだった。

　勝てる試合だったなあ。

　戦っているときはとにかく必死で、これほどの攻勢は実感できていなかった。もったいない、全然勝てる試合だった……。序盤3つのラウンドが勝負、そこは何が何でも取りに行く。そう戦前に決めた作戦は映像を見る限り、十分に実行できていた。

　いや、想定以上だったかもしれない。試合中、僕はお客さんの声援がほとんど耳に入らないのだが、映像からも会場が熱気を帯びているのが分かった。戦っている当人以上に、観客の皆さんは勝機を感じてくれていたのかもしれない。

強さよりも光っていた「巧さ」

　第4ラウンドに向けてコーナーの椅子を立った僕の顔は、鼻筋や目元がかすかに腫れ始めていた。手応えは感じていたが、自分のペースに持ってくるために、それ相応の代償も払わされていたということだろう。そして、この辺りから僕は戦いながらゴロフキンにちょっとした驚きを感じ始めていた。

　それは、強さよりも巧さが光るということだった。

©Takuya Sugiyama

　僕のブロックの脇や合間から、しっかりナックルを返したパンチを入れてくるのだ。戦う前はガードの上からのパンチで強引になぎ倒す武骨なイメージを持っていたが、実際に戦ってみるとパンチの軌道がコンパクトで、コンビネーションブローも思った以上に滑らかだった。

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