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村田諒太はゴロフキン戦をどう振り返る? 映像を見ながら明かした「やれてるじゃん、俺」「むしろ考えないことに集中した」
posted2023/05/05 11:02
text by
村田諒太Ryota Murata
photograph by
Takashi Mochizuki(BIFE pictures)
激動の2022年もあと10日余りで終わろうかという12月下旬、僕はノートパソコンのモニターに映し出された自分の姿を見つめていた。
プロ18戦は全て映像を見返してきた村田だが…
およそ8カ月前、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)と戦ったWBA(世界ボクシング協会)・IBF(国際ボクシング連盟)世界ミドル級王座統一戦の試合映像。この本を書くために、改めて見返そうと思ったのだ。試合の映像をフルラウンド見るのは、これが2度目のはずだった。最初は試合から4カ月ほどたった8月。この一戦を録画放送したWOWOW「エキサイトマッチ」の番組ゲストに呼ばれたときだった。
ただ、正直に言うと、そのとき見た映像の記憶はかなりあいまいだ。まだ敗戦の傷が癒えておらず心の中で目を背けていたのか、それとも番組の進行やアナウンサーとのやり取りに気を取られ、どこか注意力が散漫になっていたのか。
この一戦まで、プロで行った18試合は全て映像を見返してきた。ロブ・ブラント(アメリカ)を相手に屈辱的な敗北を喫した18年10月のラスベガスでの防衛戦もしばらく時間はかかったが、後でしっかり映像を見直している。敗北を真摯に受け止め、9カ月後の再戦での王座奪還(2回TKO勝利)につなげた。アマチュア時代も含めて、自分が最も満足できる勝利の一つだ。
何年も昔の出来事に思えた「あの一戦」
どの試合を見るときも、次の試合に向けての反省や復習という目的を伴っていた。少々人ごとめいた言い方になるが、今回のゴロフキン戦を年の瀬まで見ようと思わなかったのは、自分なりに「次」はもうないと悟っていたからだろう。
いずれにしろ、この日、僕は初めて試合を見るような気持ちだった。そして、試合のことが随分と遠い昔のことに感じられた。
ゴロフキン戦から約8カ月、リフレッシュのために自宅近くのフィットネスジムで汗を流すことはあっても、この日までボクシングの本格的な練習は1度もしていなかった。これだけ長い間、ボクシングから離れた生活というのはプロ転向してから約10年、1度もなかったことだ。そのせいか、あの試合も何年も昔の出来事に思えたのである。
平常心だった試合前
映像の再生マークをクリックする。いちファンのように楽しみな気持ちと、それを上回る緊張感を覚える。すぐに、あの長い一日の記憶がよみがえってきた。