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「外見で評価されるのがキツかった」実業団→プロ転向の個性派ランナー下門美春が振り返る現役生活「実業団はお姫様状態。でもプロは…」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byYuki Suenaga
posted2023/05/04 17:00
2月に現役生活に終止符を打った長距離ランナーの下門美春さん。途中陸上から離れ、プロランナーにもなった彼女に女子陸上界はどう映っていたのか
プロでありながら埼玉医科大に契約選手として加入した時、スタッフと選手の連携がうまく行っておらず、チームとしての土台がまったく無かった。
「お互いに他人行儀というか、選手もとりあえず頑張ろう! というだけの品の良い“お嬢さん”が集まっているような印象で、駅伝に向けて一緒に強くなっていこうよという雰囲気ではなくて。このままではまずいと思い、夏合宿から一緒に走るようにして、走りながら指導していきました。練習で頑張り過ぎている子には、ここは抑えていこうとか、アドバイスをしながら駅伝に持っていくのがおもしろいなって感じたんです」
その時、指導の楽しさに目覚めた。今、個人ベースで行っている“shimo部”という市民ランナー向けの練習会もそのひとつだ。
「市民ランナーとの練習会は一緒に走れるので楽しいですね。でも、これから本当にやりたいのは実業団の指導者です。私はトップ選手にはなれなかったですが、実業団やプロでいろんな経験をしましたし、それが大きな財産になっています。今ならまだ走れるので一緒に走りながら若い選手を育てたいです。こんな外見なので、(実業団は)なかなか難しいかなと思いますが……(苦笑)」
学生に伝えた「語学を学んだ方がいいよ」
下門さんの華やかなスタイルは、昔ながらの陸上選手のイメージを180度覆すものだった。欧米の選手は競技力だけではなく、自分を魅せることも重視し、楽しんで競技をしているが、日本の女子陸上界はお堅いところが多く、魅せるところに意識が至っていない。下門さんは、指導者として両立を目指していきたいという。若い選手が憧れるようなスタイルを見せていくことも競技普及には大事なことだと考えているからだ。
今年1月、都道府県対抗女子駅伝に下門さんは栃木県チームで出場した。
先生たちが今回で現役を離れる下門さんに中高生に一言とお願いをした。その時、下門さんは、「語学を学んだ方がいいよ」と伝えた。
「ひとりで海外遠征に行った時、幸いにも盗難にあわず、飛行機の遅延もなく、自動翻訳機があったのでなんとかなりましたけど、言葉をしゃべれて意思疎通できればストレスは減るし、気持ちに余裕ができる。本当に世界で戦いたい子は競技だけじゃなく、語学を勉強して戦う準備をしてほしいと言いました」
戦いは、走る時だけではない。人間的なタフさが求められるのは、すべてのアスリートに共通する。それを実感した下門さんの言葉は、いろんな世代の選手に響くであろうし、同時にこれからの女子アスリートに伝えたいこともある。続く#2では、現役時代の経験を交えながらその思いを明かしてくれた。
<続く>