「実業団は内面にも外見に対しても、『こうであらねばならない』という像が強すぎるんです。黒髪のショートで、ネイルもピアスもなし、恋もしない。陸上だけをひたむきにやれば評価される。結果を求めて監督や会社からのプレッシャーがあるのは仕方ないんですが、外見で評価されるのがキツかった。私は茶髪でネイルしてもピアスしても走れる。それでええやん、自分らしく生きたいって思っていました」

　自分を自由に表現できるフリーの立場になったが、プロの厳しさを改めて痛感した。

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プライドだけでやっている感じでした

「プロになって実業団の待遇の良さが身に染みて分かりました。実業団はお姫様状態なんですよ。練習も合宿も遠征の手配も全部やってくれる。ケガして走れなくても給料が入る。でも、プロになったら当然だけど誰も助けてくれない。お金がないから合宿にも行けないし、練習も給水とかのサポートが必要ですが、それもない。結果が出ないとお金が入らないので貯金を切り崩してやっていました。ほぼ市民ランナーと変わらず、プライドだけでやっている感じでした」

　プロランナーという肩書は、一般的には実業団の選手よりも上のレベルに見えてしまう。プロで優雅な生活を送っているとみられ、SNS上では妬みや誹謗中傷が増えた。

「プロだと好き勝手自由にやって、お金いっぱいもらっていていいなみたいに見えてしまうんでしょうけど、それは野球やサッカーなど一部の世界の話であって、陸上の女子にはまだまだ遠い世界です。でも、イメージが先行するので、実業団の選手と比較されて、結果出せよとか、あれこれ言われて傷つくことがたくさんありました」

引退の理由は？

　約5年間、プロを続け、下門さんは現役引退を決めた。32歳は、まだまだやれる年齢だが、引退に至る理由は何だったのか。

「プロとしてはMGCに出て、パリ五輪を狙うべきなんですが、MGCを獲れたとしてその先、自分がどのくらい戦えるか、考えました。若くて速い子がどんどん出てきている中、もう1回スポンサーを探す労力と2時間21分を自分が出せるのかとなった時、限界かなって感じたんです。でも、それは自分がもうダメだとか、諦めるとか、投げやりなものではなく、自分が今持っているものを次、どうやって生かしていこうかなっていう新たな挑戦のスタートだと考えていました」

指導の楽しさに目覚めたプロ時代

　やりたいことが見えたことがあった。

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