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「外見で評価されるのがキツかった」実業団→プロ転向の個性派ランナー下門美春が振り返る現役生活「実業団はお姫様状態。でもプロは…」
posted2023/05/04 17:00
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
Yuki Suenaga
那須拓陽高校から陸上を本格的に始め、実業団に進んだ後、2年間、フリーターとして仕事をした後、実業団に復帰し、その後、プロ選手として走り続けたランナーだ。「私はトップ選手になれなかった」と語る下門さんの言葉は、古い体質が残る実業団の在り方や女子選手の競技生活に一石を投じ、これから陸上の世界で戦うことを考えている多くの女子選手にとって福音になるだろう。(全2回のうち#1/続きは#2へ)
パティシエ→駅伝ランナーに
下門さんは、高校から陸上を本格的に始めたが卒業後は引退し、パティシエの専門学校に行こうと決めていた。だが、高3で東日本女子駅伝に出走した時、先輩に「やれるうちにやりたいことをやっておいた方がいい」と言われ、陸上を継続する気持ちが固まった。
「すでに大学推薦が終わっていましたし、学力では(進学は)無理なので実業団に入ったんですが、そこで拾っていただいたのが第一生命でした。強くて、体制もしっかりしていましたし、2年目まではみんなで頑張ろうみたいな家族感が強かったんです。でも、3年目に全日本実業団女子駅伝(2011年)で優勝したのですが、そのシーズンからインターハイで活躍する質の高い選手が入ってきて急にムードが変わりました。結果を出して当たり前、体調が悪くても16分切れないのはおかしいみたいになって……。私は“おこぼれ”で入った感じだったんですけど、それでも強くなりたいと思い、自分を追い込んで練習をしていました」
下剤に手を出して、夜も眠れなくなり…
朝練習は6時10分にスタートするが、いつも4時30分に起きて、アップやジョグを済ませてから全体練習をこなした。だが、後輩たちは自分の努力を越えてどんどん速くなっていく。一方、先輩が一生懸命に練習をしているのに結果が出ない厳しさ、頑張っているのに叩かれる残酷さを目の当たりにした。
「そういうのを見ていると怖くなりました。結果が求められ、篩(ふるい)に掛けられていく中、必死に練習をしているのに後輩に抜かれていく。速く走るためには痩せないといけないと思い、指を突っ込んで吐くやり方などを聞いたことがありましたが音や周りの目もあるので下剤に手を出していました。しかも、朝が来て練習しないといけないと思うと、夜に眠れなくなったんです。正直、かなり追い詰められていましたね」