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WBC優勝投手コーチが「ある投手の野球人生を狂わせてしまった」と悔やんだ日…ロッテ吉井理人監督「アドバイスは邪魔なもの」と記した真意
text by
吉井理人Masato Yoshii
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/04/30 11:00
WBC優勝時、ロッテでは監督と選手の関係である吉井理人コーチと佐々木朗希。名コーチでありながら過去に“ある投手”への後悔があったという
彼と同じアドバイスをして、正確に理解し、思い通りに身体を動かせる選手もいる。言葉の理解力が高く、理解したように身体が上手に使えるかどうかの差だ。つまり、頭で考えたことを、身体をうまくコントロールして実現できる能力があるということだ。
プロ野球選手になれるぐらいの選手だ。多くの選手は頭の中のイメージにそこそこ近い動きはできると思う。しかし、時おりまったくできない選手がいる。例に挙げた選手だけではなく、他にも何人かそういう選手がいる。
ダルビッシュとほかの選手の間にある“圧倒的な差”とは
これまでコーチとして関わった選手の中で、完璧にできるのはシカゴ・カブス(※当時所属)のダルビッシュ有選手のほかに見たことがない。ほかの選手ができるといっても、ダルビッシュ選手との間には圧倒的な差がある。日本のトップ選手が集まるプロ野球界でも、他人の言葉を自分の感覚に変換して完璧に再現できる選手はほとんどいないのだ。
コーチのアドバイスは、本来、選手にとっては邪魔なものである。だからこそ、コーチは自分の経験に基づいた言葉だけでアドバイスするのは避けるべきだ。選手の言葉の感覚をしっかりとつかみ、その感覚でアドバイスしてあげなければならない。
簡単に言えば「わかる」と「できる」の違いだ。言っていることはわかるが、咀嚼できない、腹に落ちてこないのは、その選手の言葉の感覚に近づけていないからだ。だからこそコーチは「その選手だったらどう思うだろう」と想像する能力が求められるのだ。技術指導、とくにピッチングのような感覚的な動きを教えるのは難しい。
選手の言葉の感覚をつかむのは難しい。だから、できるだけ選手と話す機会を持ち、できるだけ多くの言葉を選手に語らせる。その都度、彼が口にする言葉の感覚を細かく把握していく。選手からすれば、面倒くさいコーチと思われるだろう。しかし、これは選手にとっても意味があることだ。自分のパフォーマンスを頭で理解できないと、言葉にはできない。頭で理解できないことは、身体でも表現できない。
「パッとやってグッとやってブッとやる」
自分の動きをそんな意味不明の言葉でしか語れず、にもかかわらず飛び抜けた結果を残せるのは、ほんのひと握りの天才だけである。
工藤公康監督、佐藤義則コーチから学んだこととは
〈教えてはいけない理由(5) 一方的な指導方針が、現場を混乱させる〉
言葉の感覚と似ているが、コーチが「自分ができるから選手もできる」と考えるのは誤っている。できない人にできる人が歩み寄らないと、つまり、指導する側が指導される側に歩み寄らないと、正しい指導はできない。