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WBC優勝投手コーチが「ある投手の野球人生を狂わせてしまった」と悔やんだ日…ロッテ吉井理人監督「アドバイスは邪魔なもの」と記した真意 

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吉井理人

吉井理人Masato Yoshii

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photograph byNaoya Sanuki

posted2023/04/30 11:00

WBC優勝投手コーチが「ある投手の野球人生を狂わせてしまった」と悔やんだ日…ロッテ吉井理人監督「アドバイスは邪魔なもの」と記した真意<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

WBC優勝時、ロッテでは監督と選手の関係である吉井理人コーチと佐々木朗希。名コーチでありながら過去に“ある投手”への後悔があったという

 ただし、よくいわれる「選手のレベルまで下がってあげる」という意味ではない。コーチが選手のレベルに下がるという言い方は、僕は好きではない。あまりにも選手を見下しているし、それほどコーチのレベルが高いとも思っていない。

 2015年、福岡ソフトバンクホークスで投手コーチとしてブルペンを担当した。そのときの監督は工藤公康さん、メインの投手コーチは佐藤義則さんだった。二人とも、現役時代は超一流のピッチャー、レジェンドだ。選手から見れば、どうしても社会的勢力の差が大きくなる。叱責されると委縮し、一気にモチベーションが下がってしまうこともある。

 しかも、アドバイスのレベルが選手のレベルを大きく超えてしまうこともしばしばあり、内容が理解できないため混乱する選手も中にはいた。僕がホークスにいた一年間は、選手たちに「何でも質問に答えるので、参考書代わりに使ってよ」と言った。レジェンドの指導内容をわかりやすく「翻訳」する役割に徹しようと思ったからだ。それでも、選手によってはレジェンドに指導されたアドバイスを実行したくない、違うことをやりたいという意見も出てくる。そういうときは、こっそりと「おまえの思うとおりにやっていいよ」と言っていた。

 ただ、僕自身もあの二人と一緒にいて、ものすごく勉強になった。僕が知らないことを数多く知っているし、独自の考え方は非常に参考になる。指導者の言っていることが理解できない、ビッグすぎて怖いと毛嫌いするのは、選手にとっても大きな損失になる。手前みそだが、だからこそ僕のような「翻訳者」の存在が非常に重要になる。これは、ビジネスの現場でも起こりうることではないだろうか。

コーチが翻訳者の役割を担うべき

 社長や役員などマネジメントレベルの人が言ったことを、部長や課長がただスピーカーのように部下に伝えるだけでは、部下は正確な趣旨を理解できない。翻訳者がいてはじめて伝わることもある。コーチは、そういう役割も担うべきだ。

 本来は、部下が上司の言うことを正確に理解する能力を身につければいい。しかし、それができない人、あるいはまだそのレベルに達していない人もいる。そういう場合は、状況を見てコーチが翻訳者の役割を担うべきだと自覚して、積極的に引き受けるべきだ。

 コーチがやってはいけない最大の失敗は、コーチが発した言葉で選手を混乱させることである。相手が理解できない言葉で、相手に何かを伝えても意味がない。

 以上が、コーチがいわゆる「教える」という行為をしてはいけない理由だ。では、コーチがやるべきこと、「コーチング」とは何か。次章から紹介していく。

 <次章/#2につづく>

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#2に続く
「ダルビッシュ選手は少年のように好奇心が…」吉井理人58歳がWBC前から絶賛だった“超メンタル”「自分への期待度が大きかった」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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