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「三笘薫や堂安律、久保建英は素晴らしいが…」杉山隆一81歳が語る“日本サッカーの未来”「ミドルパスの精度が低い」「もっと個性を磨かないと」
text by
田中耕Koh Tanaka
photograph byKoh Tanaka
posted2023/04/10 17:22
2023年1月、藤枝市でインタビューに答える杉山隆一。81歳のレジェンドの目に、現在の日本サッカー界はどう映っているのか
「古いと言われるかもしれないが、選手の個性が…」
こればかりではない。日本サッカー界を俯瞰してみた時に、最も危惧していることがあるという。昨年11月、杉山は山梨県甲府市を訪れ、サッカー関係者の男性と会った。そこで出た話に、大きな不安を抱いたという。
「今のユース世代も含めて若い子は技術もあるし、監督の指示通りにプレーするんですが、自分で考えるということをしないんですよね。どうすればいいと思いますか?」
「うーん……」
杉山はうなって腕組みをしたまま、それ以上、言葉を返せなかった。
確かに日本代表の選手を見ても、近年、足元の技術は明らかに向上している。ただ杉山は「古いと言われるかもしれないが、個性がある選手が少ない」と力を込めた。
「われわれの時の日本代表は、一例をあげるとすれば釜本はシュート、私はスピードと左足のクロスといった特徴があった。しかし、今の日本代表は……」
多少強引であっても、「ここぞ」の場面で点を取る選手は誰なのか。高さで競り勝つ役割の選手は? 職人的なFKやPKを蹴る選手は? 等々、つまるところ選手の「個性」と「特徴」があまり見えてこないという。
日本サッカー界は、いかにして“個”を伸ばすかが大きな課題になっている。半世紀以上前、恩師デットマール・クラマーが日本を去る際に残した言葉を、杉山はあらためて思い出していた。
「日本サッカーが世界に半歩でも一歩でも近づくためには、個人のレベルをアップさせること。それが一番の急務だ」
1964年の東京五輪当時の日本代表は、高いテクニックはなかったため、闘争心を持ってチームプレーに徹した。それを踏まえて、クラマーは組織力やチームワークをベースとして、個人の力を高めることが大事だと伝えたかったのだろう。