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「三笘薫や堂安律、久保建英は素晴らしいが…」杉山隆一81歳が語る“日本サッカーの未来”「ミドルパスの精度が低い」「もっと個性を磨かないと」
text by
田中耕Koh Tanaka
photograph byKoh Tanaka
posted2023/04/10 17:22
2023年1月、藤枝市でインタビューに答える杉山隆一。81歳のレジェンドの目に、現在の日本サッカー界はどう映っているのか
三笘薫の瞬発力は「私の現役時代に似ている」
ドイツとの初戦で、杉山が度肝を抜かされた選手がいた。自身と同じ右利きで左ウイングの三笘だ。同点ゴールのきっかけは、三笘のキレのあるドリブルからのパスだった。
「ボールを持った三笘の5メートルから20メートルの速さは、相手もついてくることができない素晴らしいものがある」
スペインとの3戦目でも、三笘は同点で迎えた後半6分にゴールラインぎりぎりのボールを折り返し、田中碧の逆転ゴールへとつなげた。VARでゴールと判定され、「三笘の1ミリ」と呼ばれるようになった場面だ。
「一歩目の加速力は世界水準だね。老兵と比べられるとみんな嫌だろうが、あの瞬発力は私の現役時代に似ているんじゃないかな」
対峙した相手から「忍者のように目の前から消えていた」と言われる瞬発力を誇った杉山は、そう言って柔和な笑みを浮かべた。
スペイン戦ではもう一人、目を引いた選手がいた。MFの堂安律だ。強烈なミドルシュートによる同点ゴールは、ポジションや体格こそ違えど、かつて杉山とホットラインを形成した“最強ストライカー”釜本邦茂を彷彿させるシーンだったという。
「釜本のシュートの特徴は、とにかく膝下の動きが速かったこと。ボールが足元に来たと思ったらシュートを打っていた。堂安のスペイン戦のシュートも膝下の動き、振りが非常に速かった。一瞬、釜本とかぶって見えたよ」
「ミドルパスの精度が低い」レジェンドの指摘
杉山は若い2人の活躍に目を細めた後、カップを手にして水を飲んだ。話が途切れたのを見計らって、私は質問した。
「W杯を踏まえたうえで、日本サッカーの課題はどこにあるのか教えてもらえますか」
「そうだね。そりゃあ、いっぱいあるよ」
81歳の杉山の目が、相手の弱点を見逃さない勝負師のように鋭く光った。
まず杉山が気になったのは、「20~30メートルの距離のパスの精度が低いこと」だった。他の強豪国と比べて正確性に欠け、スピードも劣っていたという。「世界のトップクラスは、この中間距離のパスがとてもうまい。日本のトライアングルパスは非常にレベルが高いが、相手の脅威になるミドルパスはできてない」と杉山は指摘する。