- #1
- #2
核心にシュートを!BACK NUMBER
「(三笘)薫さんにはよく聞きますね」田中碧ヒザの負傷離脱も…ブンデス2部で“24歳の進化”とは「ここで学んだ意味があった、と」
posted2023/04/12 17:21
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
Kiichi Matsumoto/JMPA
4月9日の試合で田中碧が右膝の内側靱帯を断裂したというショッキングなニュースが飛び込んできた。その種のニュースは大きく報じられる一方で、日本で試合が放送されない影響からか、最近の田中の進化は伝わってこなかった。
実際、ケガをした第27節のビーレフェルト戦(2-2)でも、引き分けに終わり、負傷交代を余儀なくされたのに、田中は『キッカー』誌のベストイレブンに選ばれた。本稿ではそんな田中の進化の跡を本人からの証言をもとに克明に書きつらねていく。順調にいけば3カ月ほどでの復帰が見込まれる田中の未来を考えるとき、きっと貴重な記録になると信じて。
「田中碧と一緒にやると、プレーしやすいな」と
「チームが上手くいかなくなったときに、試合に出てチームを良くする」
長谷部誠の良さは一見しただけではわかりづらいが、長谷部自身は自らの強みをクリアに言語化している。
そんなレジェンドと多くの共通項を持つのが、田中碧である。
長谷部が長く日本代表でつけてきた17番を背負い、ポジションも同じ……。
Jリーグ初出場の北海道コンサドーレ札幌戦、A代表初出場のオーストラリア戦、そしてカタールW杯のスペイン戦――大一番でゴールを決める実力が田中にはあるが、その長所をすぐに理解するのは簡単ではない。
それでも、本人は長谷部と同じように、自らの理想とする選手像を明確に言語化できる。
「チームメイトに『田中碧と一緒にやると、プレーしやすいな』とか『同じピッチにいて欲しいな』と思われる選手になること」
きわめて明確な目標だ。しかし、ゴールやアシストのように目に見えるものではない。だから、簡単には理解されないのかもしれない。ただ、彼の所属するデュッセルドルフの試合を定点観測している者には、最近の田中から進化の跡が容易に見てとれる。
「全て見えていた」絶妙のセカンドアシスト
例えば、3月19日に行なわれたデュッセルドルフとハンザ・ロストックの試合、チーム4点目のシーン。ドイツの放送局「SKY」の実況はこう伝えた。
「田中対ディフェンス4人! それなのにパスを通した!!」
あの場面で、エリア手前から田中が力強くドリブルで仕かけた。4人に囲まれ、ファール気味のチャージで倒されながらも、上半身が地面に触れる寸前に足をのばし、田中はボールを蹴った。ボールは、相手ディフェンダーの軸足のすぐ脇のコースを通り、味方FWの元へ。優れたディフェンダーでも、踏み込んだ軸足は容易に動かせない。だから、パスを通せた。これを味方FWが素早く外にながし、右SBによるゴールが生まれた。
チームメイトは、田中の芸当に「お手上げだ」と、頭を抱えるジェスチャーを見せた。そのかたわらで、田中は力強くガッツポーズをした。
「全て、見えていたからですよ」
あそこで拳を固く握りしめた意味を、田中はそんな言葉とともに振り返る。