マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「なぜ近藤健介はドラフト4位指名だった?」他球団スカウトがいま明かす“後悔”「やっぱり…171cmでしょ?」思い出す中3近藤が荒川に3本放り込んだ日
posted2023/03/15 17:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
JIJI PRESS
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)韓国戦、3回に逆転して4対3の5回。さらに追加点を奪いたい侍ジャパン。
この回先頭の近藤健介(現ソフトバンク)が、フルカウントからの内角低めをファールにした。
らしいな……。思わず、つぶやいていた。
打ってもヒットになりにくい足元の145キロを巻き込むようなスイング。間違いなく、一塁線方向へファールにする振り方だ。打ちにくいボールをファールにして、投手の失投を待ち構える。
近藤健介といえば、まず「選球眼」だ。
選球眼には2通りある。ストライクとボールを見分ける選球眼。もう1つは、打ってヒットやホームランになるボールとそうでないボールを見極める選球眼だ。
そして、その次の7球目。近藤が後者の選球眼を発揮した。
ど真ん中に見えたチェンジアップ系を、ひと振りでライトスタンドに放り込んでみせた。
ファールで粘れば粘るほど、打者は有利になる。スイングするたびに体と気持ちがほぐれ、向き合う投手についての「情報」も増える。なにより、ファールのたびにボールが新しくなるから、投手は指とのなじみを確かめながら、投げにくさが続く。
近藤が完璧に捉えたチェンジアップ系も、フルカウントからはあり得ないど真ん中。もしかしたら、ファールで変わったばかりの新球にチェンジアップが抜けきれなかった「投げ損じ」だったのかもしれない。
満面の笑みでダイヤモンドを走る近藤を見ていて、「あの日」を思い出していた。
約90m先の荒川に“3本”放り込んだ
2008年の夏。「バッティング職人・近藤健介」の資質を初めて目の当たりにした日だった。
当時、修徳中(東京)といえば、小野寺信介監督のきびしく丁寧な指導のもと、中学軟式球界で全国有数の強豪として、その名が鳴り響いていた。なかでも、飛び抜けた才能を発揮している球児がいることを教えてくれたのは、そのライバル中学の監督さんだった。
夏休み間近の暑い日。
両校が対戦する練習試合を見せていただいた。
中学3年の近藤健介。第一印象は、いかにも……という絵に描いたような野球少年だった。ただ、伝え聞くような「凄み」は感じなかったのを覚えている。
驚いたのは、試合が始まってからだ。