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三笘薫はなぜ「アジア版バロンドール」を獲得できなかったのか? 日本人唯一の投票者の見解《1位ソン・フンミン、5位三笘、6位鎌田、7位堂安》 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2023/02/18 17:11

三笘薫はなぜ「アジア版バロンドール」を獲得できなかったのか? 日本人唯一の投票者の見解《1位ソン・フンミン、5位三笘、6位鎌田、7位堂安》<Number Web> photograph by Getty Images

2022年のBFA最優秀選手に選ばれたのは、W杯でのフェイスガードが記憶に新しいソン・フンミン。6年連続8度目の受賞となる

 さらにAFC加盟国・地域以外のジャーナリストが、ゲストとして投票に加わっているのもBFAの特徴のひとつである。そのほとんどがヨーロッパ系のジャーナリストで、マイケル・チャーチ(北アイルランド)のようにアジアでの取材実績が30年近いものや、ザビエ・バレ(フランス)のようにパリ在住ながらアジアサッカーに詳しいものもいる。日本在住では、ジャパン・タイムズのダン・オロウィッツが参加している。

もうひとつの「アジア最優秀選手賞」

 また、アジアには、AFCが主催するアジア年間最優秀選手賞もある。これは1984年にアジア・オセアニア・サッカー・ハンドブックがはじめ、IFFHS(国際サッカー歴史統計連盟)が引き継いだものを1994年からAFCが継承したもので、歴史も伝統もBFAの比ではない。ただ、ひとつ重大な欠点があり、それが賞の権威を損なっている。

 アジア年間最優秀選手賞は、例年、AFC本部のあるクアラルンプールでおこなわれる表彰式に出席できる選手にしか与えられない。2005年にパク・チソン(マンチェスター・ユナイテッド)、2007年に中村俊輔(セルティック)がただひとりのアジア人としてバロンドール候補にノミネートされた際も、表彰式に出られないために受賞は見送られた。2014年以降は、中東の選手たちが独占している。

 さすがにそれではまずいと思ったのだろう。AFCは2012年に、アジア以外のクラブに所属するアジア国籍の選手を対象にした、国際最優秀選手賞を男子に限り新設した。しかしここでも過去8度の表彰のうち、ソンが選ばれたのは3度だけで(2015年、17年、19年。2020年と21年はコロナの影響により表彰なし)、BFAとの違いは歴然としている。

 今日、海外(ヨーロッパ)でプレーする日本人選手は80人を超えている。5大リーグやそれに準じるリーグで、レギュラーとして活躍する選手も多い。だが、彼らにしても、ソンのように、あるいはモロッコのアクラフ・ハキミ(パリSG)のように、CL優勝を狙うチームで中心選手の地位を確立しているわけではない。三笘にしろ久保にしろ堂安にしろ、世界的に見れば活躍は今はじまったばかりで、これから本当の意味で注目を浴びていく選手たちである。カタールW杯での日本のセンセーションは、そんな能力と可能性を秘めた選手たちが、コレクティブに働いた結果として生み出したもので、そこにはメッシやエムバペはいなかったし、モドリッチやハリー・ケイン、トッテナムでのソンもいなかった。

 本田や香川真司、岡崎らがヨーロッパで輝きを放ち始めたのは、ベスト16に進んだ南アフリカW杯の後だった。三笘たちにも同じことは言え、実際に彼らはブレークしようとしている。

 彼らがさらにステップアップしたとき、日本サッカーは次の段階へ進んだといえる。三笘らの世代が、ソンを超えることができる。その日が来るのも、そう遠い先ではないのだろうと思う。

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