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京大合格者もいる偏差値70超の公立校で“たった1人のプロ宣言”「ストライクが入らなかった秀才右腕」はなぜプロ野球選手になれたのか?
posted2023/01/20 17:00
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph by
Shimei Kurita
2022年10月20日、偏差値70超えのある公立校に歓喜の声が響いた。
兵庫県屈指の進学校である県立長田高校から慶應義塾大学を経て、橋本達弥(22歳)がドラフト5位でDeNAから指名を受けたのだ。同校にとってOBのプロ入りは、初の快挙となった。
高校時代からプロ志望を公言していた橋本は、3年夏の兵庫県大会で小園海斗(広島)擁する報徳学園を3安打1失点とほぼ完璧に抑える投球で評価を高めると、六大学の名門ではクローザーとして大学侍ジャパンにも選出される成長を見せ、NPBの門戸を叩く。
ドラフト指名後、慶應義塾大学の野球部宿舎で取材に応じた橋本は、心中をこう話した。
「病気や怪我で苦しんだ時期もありましたが、トントン拍子に進んでいって、まだ頭の中で整理が出来ていない感じです。それでも高校時代の『自分がやらなければ勝てない』『今の環境でどうやったらプロに届くのか』という思考があったから、今があるとも思っています」
2016年に21世紀枠でセンバツ出場
長田高校の野球部は不思議なチームだ。部員のうち、シニアやリトルリーグの出身者は年に1、2人いればいいほう。練習をみていても、とても激戦の兵庫で上位に食い込んでくるチームには見えない。だが、試合になると接戦で強豪校を食うようなチームに生まれ変わる。
一部受験サイトなどを確認すると、長田高校の偏差値は70~73とある。野球部は16年のセンバツ出場を皮切りに、橋本を擁した18年夏はベスト8へと進んだ。22年にはエースの松田宰を中心にまとまり、夏の甲子園に出場した社高校に破れるも、ベスト4進出を果たすなど近年躍進が目立つ。兵庫県の学区改正もあり、偏差値は上昇傾向の一方、野球部の部員は減少している。逆説的だが、野球に集中できる環境が他の強豪私立よりも大きく変わっている中、成績を上げているともいえる。06年から野球部の監督を務める永井伸哉がこう話す。
「練習時間は塾や学業との兼ね合いで、実質2、3時間程度。プロ野球も観たことがないという生徒が多い中、まずは捕る、投げるという基礎から3年間がスタートします。ただし、一度目標を決めてそこに集中すると成長スピードは早いという自負はあります。強豪私立との比較で8割戦える部分があれば、戦えると考えるチームづくりを目指してきて、去年の夏はまさにそういう集団でしたね」