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京大合格者もいる偏差値70超の公立校で“たった1人のプロ宣言”「ストライクが入らなかった秀才右腕」はなぜプロ野球選手になれたのか?
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byShimei Kurita
posted2023/01/20 17:00
昨秋のドラフトでDeNAから5位指名された慶應大・橋本達弥投手。高校時代は兵庫県内屈指の進学校で技術を磨いてきた
「正直、慶應のこともよく知らなくて『どうやら頭が良い大学らしい』『野球が強いみたい』という程度のものでした。ただ、それだけ注目が高い学校で活躍すればプロにつながるはずだ、と。高校時代は常に自分が打たれたらチームもダメ、という緊張感のもとで野球をしていた。それが大学では少しずつ変わっていき、後ろを任されたことで、チームのために投げる意識が次第に芽生えていきました」
大学では、怪我に苦しみながらも通算36試合で2勝2敗。75.1イニングを投げ、64奪三振、防御率1.19の数字を残し、六大学屈指の好投手へと評価を上げた。念願だったプロ入り後の課題も、本人の中で明確だ。
「おそらくストレートの質。プロ・アマの交流戦で二軍のバッターと対戦した際、甘く入ると簡単に弾き返された。一軍のバッターならよりシビアになる。ストレートでカウントを稼げるようになれば、よりフォークも活きる。そうなると簡単に打たれない自信はありますね」
もし、強豪私立で野球をやっていたら?
取材の最後に、「もし長田高校ではなく、強豪私立に進んでいたらプロに届いたと思うか」と橋本に尋ねてみた。すると少し間を置き、こんな答えが返ってきた。
「想像になってしまいますが、たぶん強豪の管理されすぎる環境だと、管理された自分に満足しちゃう面が性格的にあったと思います。僕の野球人生は、見えない“何か”をずっと探りながらゆえ、レベルアップできたという手応えがある。高校時代から高校生を相手にしているという感覚ではなく、常に先を見据えてやってきた。その意識があったから高校生や大学でも、『打たれるわけがない』と考えられるメンタルが環境的に身に付いたのかな、と」
長田高校を取材してきた中で、なぜ普通の進学校がレベルの高い兵庫で成績を残せるかという“答え”をなかなか見つけられずにいた。しかし、橋本の言葉を聞くと、どこか腑に落ちたような感覚を持った。公立進学校で養った感性を胸に秘め、橋本はルーキーイヤーからの飛躍を誓っている。
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