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京大合格者もいる偏差値70超の公立校で“たった1人のプロ宣言”「ストライクが入らなかった秀才右腕」はなぜプロ野球選手になれたのか? 

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栗田シメイ

栗田シメイShimei Kurita

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posted2023/01/20 17:00

京大合格者もいる偏差値70超の公立校で“たった1人のプロ宣言”「ストライクが入らなかった秀才右腕」はなぜプロ野球選手になれたのか?<Number Web> photograph by Shimei Kurita

昨秋のドラフトでDeNAから5位指名された慶應大・橋本達弥投手。高校時代は兵庫県内屈指の進学校で技術を磨いてきた

 進学実績は特筆すべきものがある。部員の大半が理系を占めるという同校野球部では、この10年で約86%が国公立大学に進学している。そのうち43%は、京都大学、大阪大学、神戸大学の難関大学へと進む。橋本の同級生をみても、京都大学に1名、大阪大学に5名、神戸大学に4名と半数が関西の難関国立大学に合格しているのだ。更に彼らの多くは進学先でも、野球に携わっている点も興味深い。「文武両道」という言葉がこれほど的確に当てはまる公立高校も稀だろう。

 筆者はセンバツ出場を果たした16年に、夏まで同校に密着取材して書籍にまとめた。その中で、強く印象に残っていることがある。時間が限られているなか、移動中にも参考書を読み漁り、少しの空いた時間も無駄にはしないという強い意思が伝わってきた。進学校の野球部を形容する際によく、集中力や思考力、という言葉が選ばれがちだが、決してそれだけではない。「出来ないことは捨てる」という潔いまでの着想が芯を食っているようにも映った。

 部員たち一人ひとりに取材をして将来の夢を聞くと、「研究者になりたい」「海外を飛び回る仕事がしたい」「地元を支える公務員になりたい」といった声が多かった。甲子園でも好投し当時プロ注目だった、エースの園田涼輔(筑波大学に進学)に聞いても「野球の道ではなく将来はロケット開発がしたいです」と、明かしていたことにも驚かされた。

「プロに行きたいと言ったのは橋本だけ」

 そんなチームにおいて、参加校の多い兵庫から甲子園を目指すということは意識改革から始めることが必要となる。永井監督が橋本の高校時代の様子を述懐する。

「今まで長田で教えてきて、プロのスカウトが見に来てくれるような選手も何人かはいました。ただ、『プロに行きたいです』とはっきり言ったのは橋本だけです。ほとんどの同級生が国立大学へと進み、前例もない中、その意思を持ち続けることは大変だったと思います」

 中学時代の橋本は、公立中学で球は速いが強豪私立から声がかかるような選手ではなかった。それでも勉強は大の得意だった。中学時代の成績はオール5。県下のほぼ全ての高校を選べる中、近所の進学校を選んでいる。高校入学時には練習をみて、「すぐレギュラーを取れそう」とも感じたという。当然甲子園という発想も強くはなく、長田に進学した時点では野球にそこまで打ち込むつもりではなかった。しかし、そんな環境が橋本の才能を伸ばすことにもなる。

 入学当初は制球が定まらず、1年時は主に内野手として起用された。永井監督は橋本の投手としての非凡な能力は感じていたが、まずは体作りから行わせるための選択でもあった。

【次ページ】 入学時「ストライクが全く入らなかった」

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橋本達弥
慶應義塾大学
長田高校
横浜DeNAベイスターズ

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