熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
鎌田大地42億円、冨安健洋35億円だけどエムバペ252億円、ビニシウス168億円!“市場価格差の根本”を育成システムから考える
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2023/01/14 11:02
カタールW杯スペイン戦のスターティングメンバー。鎌田大地や久保建英ら“市場価値10億円オーバー”の選手は増えてきたが……。
スポーツに限らず、「他者から命令されてやる」のと「自発的に努力をする」のとでは、長い目で見れば成果が全く異なる。指導者や父兄に叱られ、怒鳴られて練習をすれば、短期的には効果を発揮することがある。しかし、それでは長続きしない。
ブラジルでは「体罰、暴言は違法。指導者は職を失う」
日本では、育成年代であっても大会で好成績を上げることが“勲章”となることが多い。このため勝利至上主義に陥りやすく、体罰、パワハラ、しごき、暴言などを引き起こしかねない。
高校の部活動に関しては『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(加部究)、部活全般が抱える問題については、『部活があぶない』、『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(いずれも島沢優子)などが警鐘を鳴らす。
2012年末に大阪市立桜宮高校のバスケットボール部の部員だった男子生徒が顧問からの体罰を苦にして自殺した事件があって以来、「体罰は減少傾向にあるが、その代わりにパワハラ、暴言はむしろ増えている」と島沢優子氏は指摘する。
ブラジルのあるビッグクラブのアカデミー責任者に日本のスポーツの育成現場におけるこれらの問題を打ち明けたことがある。すると「日本のような先進国でそんな野蛮なことが起きているなんて」と驚かれた。
「ブラジルでは似たようなことは起こらないのか」と尋ねたところ、「自分は、見たことも聞いたこともない。体罰も暴言も違法行為であり、そんなことをしたら選手とその父兄から訴えられて指導者は職を失うからね」という答えが返ってきた。
合理的で効率の良い練習をする必要性
2)練習では「量より質」を重視。合理的で効率の良い練習をする。
かつて、日本では非合理的で効率が悪い長時間練習を強いる指導者がいた。そのため、選手たちは心身共に疲弊し、中学や高校の段階で燃え尽きてしまう者が多かった。
たとえば、ランニング。かつて、日本の強豪校では過酷な走り込みをするのが通例だった。鹿児島実業高で厳しい指導を受けた元U-23日本代表DF那須大亮は、自身のYouTubeで「20日以上もボールに触らず、短距離、中距離、長距離の走り込みを命じられたことがあった」と明かしている。
こちらもブラジルで選手育成に定評があるサントスのアカデミーの指導者に聞いたところ、以下のような答えだった。
「ランニングをするのは、基本的にウォーミングアップのときだけ。ボールを使った練習でたっぷり走るから、スタミナはそれで十分に養える。フットボールは、何も考えずに走るような単純なスポーツではない」
「長時間走らせても意味がない。選手に過剰な負担を与え、故障の原因となりかねない」