Jをめぐる冒険BACK NUMBER
「クレイジージョブ? 代表監督は幸せな仕事」森保一が語った“続投”決定前の本音「批判は気にならないし、逃げ出したいと思ったこともない」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byWalnix
posted2023/01/01 14:40
カタールから帰国後、インタビューに応じた森保一監督。東京五輪監督就任を含めた約5年の戦いを振り返った
――先ほどの「最善の準備」という話ですが、ドイツとの初戦を迎える前にも選手たちから「やれることは全部やった」という言葉を聞きました。その表情や醸し出す雰囲気からも徹底して詰めてきたことが窺えましたが、実際にはどういう流れで、どんな準備をしてきたんですか?
森保 W杯に限らずに言うと、まずは我々がやるべきチームコンセプトを共有することからですね。集合して最初のミーティングで必ずやりますし、W杯前にもやりました。そのあとは対戦相手との噛み合わせの中で、我々がやりたいことと相手がやろうとすることの傾向と対策を詰めていきます。それはミーティングでも、ピッチ上でも。攻撃、守備、オープンプレー、セットプレーとポイントを抑えてやっていきます。
もちろん、ピッチに入ればいろいろと変わることもありますけど、試合に向かううえでのベースのイメージをクリアにしていく。それプラス、試合の中でどう変化させていくか。基本がAパターンだとしたら、Bパターン、Cパターンと、選手たちが混乱しない程度に伝えていました。だから、4バックでも3バックでも、大きなストレスなく、ノッキングすることなくできたのかなと思います。
――ベースとなるコンセプトというのは、攻守の切り替えや球際の部分、あるいはディフェンスラインから可能な限り繋いでいく、といったところですか?
森保 そうしたところを含めた攻撃の優先順位、守備の優先順位の確認ですね。ただ、相手との噛み合わせで変わっていきます。例えば、攻撃の優先順位の1番、2番、3番、守備の優先順位の1番、2番、3番がある。攻撃であれば、奪った瞬間に縦に行きたいけど、相手が縦を完全に止めてきて、ハイプレスを掛けてこられたら、優先順位の2番が横だとすれば、横の幅を使ってプレスを回避するとか。守備でもボールロストした瞬間に奪いに行くことが優先順位の1番だけど、状況によっては一旦ブロックを作って、そこからもう1回対応していく必要があったり。相手の狙いをうまく外していけるように、状況に対応していけるように、ということはチームとして共有しながらW杯を戦えたと思います。
「キャプテンが集約して伝えていた」
――そうしたゲームモデルを選手に伝え、浸透させるうえで、映像の使い方を工夫したそうですね。
森保 特に今年に入ってからですね。映像とアニメーションを組み合わせたり、ピッチ上で映像を見られるようにして練習に反映させたり。フィードバックの映像も加工して、ポイントがよりはっきり分かるように。そこは、コーチングスタッフ、テクニカルスタッフがすごく工夫して、プレゼンテーションしてくれました。我々もいろいろな手を考えながら、選手たちの意見も聞きながら、選手たちと一緒に考えて、よりイメージがクリアになるように、個々の役割がはっきりするように。それをチーム全体で共有するということはやってこられたかなと思いますね。
――それでも代表チームの活動日数を考えれば、チームとしてやれることは限られていますし、監督が一から十まで言っても選手の耳には入らない。そこで足りない部分に関しては選手たちがディスカッションをして、それを森保さんが吸い上げて、という流れで詰めていったのでしょうか?
森保 まず選手たちに伝えるときも、選手たちの反応を見ながら、臨機応変にやってきたつもりです。選手たちも選手ミーティングで思ったことを話して、それを吉田麻也キャプテンが集約して伝えてくれました。W杯での戦いに関して言えば、W杯での経験はコーチングスタッフよりも一部の選手たちのほうがある。彼らの経験をチームとして生かすことが大事だと思ったので、ディスカッションをしたり、コミュニケーションをとったりしながら、W杯で勝つためにチームとしてどうしたらいいかを、選手とスタッフが一丸となって考えていけたかなと思います。