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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「山の神、ここに降臨」箱根駅伝の名実況はなぜ生まれたのか。昨年急逝した日テレ・河村亮アナウンサーの“仕事の流儀”
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by日本テレビ
posted2023/01/02 06:06
河村アナの最後の箱根駅伝担当(スタート直前番組)
箱根駅伝の醍醐味の一つが、生中継であることだ。ひと区間の距離が20㎞以上に及び、往路復路ともに中継時間はゆうに5時間を越える。それゆえ、中継車に乗り込むアナウンサーはこんなことにも気を遣うという。生放送中のトイレである。レース中に何が起こっても対応できるように、途中のトイレ休憩は御法度とされている。
「自分の場合は元日は21時ごろ寝て、翌朝は水一滴だって飲みません。うがいだけして家を出て、中継車に乗り込む前にもう一度用を足す。中継バイクに乗っていたときはそれでも心配だったのでオムツを履いてました。河村さんがどうしていたかは聞いたことがないですけどね」
出場チームのエントリー選手全員に取材
そもそも箱根駅伝の実況担当はどのようにして決まるのだろう。
日本テレビは年末年始に箱根駅伝と全国高校サッカー選手権という二つの大きなスポーツイベントを抱えていて、アナウンサーは入社すると一度はどちらかの中継に携わるという。箱根駅伝を担当することになれば、その事前取材からかかわっていく。出場チームは毎年20チーム以上。1チーム16名のエントリー選手には全員に話を聞くと言うから相当なものだ。
平川さんが話す。
「毎年、担当する大学を一校決めて、選手一人に30分くらい時間をとってインタビューをさせてもらいます。基本的には担当は毎年代えるようにしていて、そうすれば新人アナウンサーでも10年が経てば10人の監督と話ができるようになっている。そこで作られた資料は共有資料として配られ、実況を担当するアナウンサーは全員が目を通すようにしています」
共有資料はすべてのアナウンサーが目を通すため、場合によっては中継時の実況で良いエピソードの取り合いになることもある。そのため、各アナウンサーが独自に追加取材をすることもあるそうだ。河村さんはこうしたところでも決して手を抜かなかった、と蛯原さんが話す。
「河村さんの実況を聞いていると、丁寧に取材されていたことがよくわかります。たとえば目当ての大学の監督が出張に出ていて、東京駅に戻ってくるという情報があったとします。クリスマスを過ぎて、取材の時間がなかなかもらえそうにない時は、東京駅に出向いて話を聞くとか。これは河村さんの話ではないですけど、先輩方の多くはそうやって話を聞いていました。資料だけではなく、そうした準備が実況に出るんだと思います」
資料を読み込み、さらに深く知りたいことについては自身で追加取材をする。手間ひまかけて集められたデータだからこそ、実況に熱がこもるのだろう。
ではあの日のフレーズはいかにして生まれたのか−–。《続く》
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。