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白熱ラグビー早明戦…念願の“年越し”を決めた早稲田がいいチームに仕上がってきた!「少なくともあと1週間、このチームを見られる」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySankei Shimbun
posted2022/12/28 17:01
対抗戦で敗れた明治を競り勝ち、大学選手権4強入りを決めた早稲田。「昨年の方がタレントは上」と話す大田尾監督も、少しずつ手応えを感じ始めている
伊藤は桐蔭学園時代から、図抜けたランニング・スキルを持っていた。入学後はケガで戦列を離れることも多かったが、勤勉な選手が多い早稲田にあって、伊藤の爆発力は大きな魅力だ。
首脳陣の中でも伊藤の起用法は議論の対象となっているようだ。明治に勝ったあとの会見で、大田尾監督は「大祐、どこで使うか問題があります」と言って報道陣を笑わせた。
これはSOかFBのどちらで起用するかということだけではなく、先発か、控えからのインパクトプレーヤーの方が効果的なのか、様々な要素を考慮しての発言だろう。その魅力を大田尾監督はこう話す。
「大祐はミスもすれば、ビッグプレーもします。ただ、対戦校にプレッシャーを与えられるんですよ。それと、プレーのスピードが上がることは間違いないです。ボールタッチ、ラン、パス、大祐がいると、ラグビーのスピードが上がります」
伊藤の「演出力」が奪った先制トライ
前半11分の最初のトライは、伊藤の「演出力」が原動力となった。
ドロップアウトからのアタック、7フェイズ目に左サイドに穴が空き、5対3の数的優位の状況が生まれた。ここで伊藤は自ら仕掛け、12番・吉村紘を囮に、2人のディフェンダーを引きつけたうえで6番の相良にパス。こうして3対1の状況が生まれ、15番・小泉怜史を経由して、11番・松下怜央が走り切って最初のトライが生まれた。
映像を見ると、相手ふたりの視線が伊藤に釘付けになっていた。伊藤の「顔」、大田尾監督の話す「対戦校へのプレッシャー」が形になったトライで、試合の入りという課題を伊藤が解決してしまったのだ。その意味では、伊藤の戦列復帰は大きな意味を持っていた。早大にとって、望外のスタートである。
しかし、明治も黙ってはいない。20分には連続攻撃から13番・齊藤誉哉のトライ、そして前半終了間際には割られたモールから2番・松下潤一郎が抜け出してトライ。明治が1点リードで前半を終えた。
両軍ともに合格点でのハーフタイムだったのではないか。試合前、大田尾監督は次のようなゲームプランを描いていたという。
「50分我慢して、そこからギアを上げていこう」
50分間は耐える。そうすれば、早稲田にチャンスは来る。そして57分、チャンスは来た。