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巨人監督の宿命とは…今季あの1戦の”非情な交代劇”にみる原辰徳監督の決断の背景「勝利と育成。一石二鳥はあり得ない」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKIichi Matsumoto
posted2022/12/25 17:04
2022年シーズンは5位に終わり、ポストシーズン進出を逃した巨人・原辰徳監督。来季はどんな展望があるのか…
「遅れた策ほど愚策はない」
もちろんこの回を乗り切り高橋が昨年のように先発陣の軸として回るようになれば8月、9月のペナントレースでここでの我慢が生きてくる可能性もある。ただ、連敗中のこの時点では、手遅れにならないうちに策を打つこと、この試合が優先だった。
「手を打つのが遅れた策ほど愚策はない」
勝負の局面で早め、早めに策を切っていくのが“原流”であれば、当然の交代だったのである。
高橋からバトンを受けた鍬原拓也投手が山田哲人内野手を中飛に打ち取りピンチは脱出。継投はここでは成功したが、結果的には3対2とリードした9回にクローザーの大勢投手が2点を失い痛恨の逆転負けを喫した。そして5月10日のDeNA戦も敗れたチームは5連敗で3位へと転落した。
その後はしばらく一進一退の戦いが続いたが、7月13日から8月3日までの10試合を1勝9敗と大きく負け越し4位に転落したのをきっかけに、その後は浮上の目もないままに5年ぶりにポストシーズン進出を逃して、巨人の2022年シーズンは終わった。
選手は育てるものではなく、育ってくるもの
もしあの場面で高橋を続投させていれば、そこから立ち直った左腕はわずか1勝というようなシーズンでは終わらなかったかもしれない。ただ、もしあの試合に勝っていれば、その後のペナントレースの流れは少し違うものになっていた可能性だってあったはずだ。
そのための最善策という選択であり、同時に言えるのは巨人の宿命は「勝利」だということである。
優勝を逃せば、勝たなければ、ファンは絶対に納得しない。若手を育成するために勝ち負けには目を瞑ってという意見もあるかもしれないが、それができないのもまた巨人なのである。
もう一つ言えるとしたら、選手とは育てるものではなく、育ってくるものだということだ。そして選手が育ってくる環境とはチームが強いことである。
坂本勇人内野手も岡本和真内野手も、誰かが育てたわけではない。当時のそれなりに戦力が揃った環境の中で彼らは彼らの力で与えられたチャンスをしっかり掴んでいまのポジションを手にしてきた。
高橋もそうだ。