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巨人監督の宿命とは…今季あの1戦の”非情な交代劇”にみる原辰徳監督の決断の背景「勝利と育成。一石二鳥はあり得ない」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKIichi Matsumoto
posted2022/12/25 17:04
2022年シーズンは5位に終わり、ポストシーズン進出を逃した巨人・原辰徳監督。来季はどんな展望があるのか…
あとアウト1つ。とりあえず勝ち越されたわけでもない。この5回を投げ切れば、開幕から苦闘する高橋にとっては、その先へもつながる可能性が出てくるのではないかと思える場面だった。
高橋本人だけではなく、多くのファンが予想外に早い交代劇に驚きを隠せなかった。筆者もその瞬間に、スコアブックに「!」とボールペンの赤インクで記したのを覚えている。
「もう少し投げさせてあげたかったですが、交代は監督の決断です」
試合後の桑田コーチのコメントだった。
投手コーチという立場から、左のエースとして育って欲しいという高橋への期待を滲ませた言葉ととれる。
原監督の采配を巡る批判も…
今季の原監督の采配を巡っては、「我慢できない」「これでは若手が育たない」という外野の批判が多く聞かれる。まさにその「我慢できない(我慢しない)」交代劇と映った典型的な場面だったはずである。
ただ、「育てる」と同時に「勝つ」ことを求められる監督の視点は、勝負に重心が掛かったところでこの交代を決断していた。
22年の巨人は開幕ダッシュに成功して4月28日にリーグ最速で20勝に到達したものの、その直後から急速にチーム状態が悪化していった。4月29日から4連敗。1つの白星を挟んで5月5日から再び連敗が始まり、このヤクルト戦は3連敗という危機的状況で迎えた試合だった。
原監督は勝負の流れを大事にする。
そういう意味ではまだまだ5月とはいえ、いまこの負の流れを1試合でも早く止めないと、取り戻すのがそう簡単ではない状況を招いてしまう。そのためには監督が常に口にする「最善」を尽くさなければならない。
そして交代の決断には、もう一つ、この試合の中での流れもあったはずだ。
高橋は先頭の投手に四球を許すというミスを犯した。しかしそのミスは、ライナーでの走者の飛び出しという相手のミスで救われたはずだった。せっかく相手がくれた流れならば、ここはしっかり青木を抑えて味方の攻撃に繋げなければならない場面なのである。
しかし相手のミスに乗ずることができずに、得点圏に走者を出して、むしろもう一度、流れを渡すきっかけを作ってしまった。
これで勝ち越し点を与えてしまえば流れは一気に相手にいってしまう。そういう原監督独特の勝負勘から生まれた交代劇だったのである。