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巨人監督の宿命とは…今季あの1戦の”非情な交代劇”にみる原辰徳監督の決断の背景「勝利と育成。一石二鳥はあり得ない」
posted2022/12/25 17:04
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
KIichi Matsumoto
2022年の巨人戦のスコアブックを読み返していると、ある投手交代に赤いボールペンで「!」と記されたページに目が止まった。
5月8日のヤクルト戦。
先発は左腕・高橋優貴投手だった。
「彼は右打者のインコースにカット気味の真っ直ぐで突っ込めるようになって、持ち味であるスクリューの威力が増した。非常に成長したし、あとはスタミナだね。スタミナさえしっかりついて7回、8回と投げられるようになれば軸になってくれる存在ですよ」
21年には2桁11勝をマークした左腕に、原監督がこんな期待を語っていたのは2月のキャンプでのことだった。
しかし監督の期待とは裏腹に、オープン戦から調子が上がらない高橋は、開幕ではローテーションを外れてリリーフ待機。2戦目の3月26日の中日戦で3番手として8回からマウンドに上がったが、1回も持たずに2死満塁のピンチを招いて降板すると、31日には1軍登録を抹消されている。
2軍調整を経て再び1軍に上がってきたのが4月19日。3度のリリーフ登板をこなして5月1日にようやく今季初先発に漕ぎ着け、このヤクルト戦が2度目の先発だった。
スターターとしてしっかり仕事を果たして、今後はローテーション投手としてのポジションを確保したい。当然、そんな思いを胸に上ったマウンドだったはずだ。
予想外の早い交代劇に本人も驚き!
初回の2死一、二塁のピンチを切り抜けた高橋は、4回に1点を先制されたが、その裏にすかさず打線が同点に追いついてくれた。
そして直後の5回だった。
高橋は先頭打者の投手のサイスニードを歩かせてしまう。しかし、まだ運はあった。1番の塩見泰隆外野手の三塁ライナーでサイスニードが飛び出し2死走者なしとピンチを脱したのだ。ところが続く青木宣親外野手に右翼フェンス直撃の二塁打を打たれてしまった。すると桑田真澄投手チーフコーチがベンチから出て、マウンドへと歩み出した。と、同時にベンチから原監督が出てきたのだ。
その瞬間にマウンドの高橋は「エッ!」と驚いたような表情を隠せなかった。