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本田圭佑と座った“熱盛”実況席「カタールW杯は人生の宝物になった」テレ朝・寺川アナが明かした“8年越しの思い”とは?〈早大時代はGK〉
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph byAtsushi Tokumaru
posted2022/12/16 11:04
早稲田大学サッカー部ではGKとしてプレーしたテレビ朝日・寺川俊平アナウンサー。スポーツ実況を目指すきっかけは、同期の言葉だった
――スポーツ実況で言えば、寺川アナは『ワールドプロレスリング』などサッカー以外にも挑戦していますね。今に生かされているものはありますか?
寺川アナ それはいっぱいありますね。プロレス実況で言えば、突然つかみかかられることもありますし、放送席に人が飛んでくることもある。飛んできた人の足がたまたま当たってしまって、口の中が血だらけで実況しなければいけないこともありました(笑)。プロレスはハプニングの連続ですが、そういう状況でも言葉を紡ぎ出し続ける素地は身に付いたと思います。
他にも、野球中継では「予測すること」の大切さを学んだり、フェンシング中継では「瞬間的に何が起きたかを理解する動体視力」を磨くことができました。あとは、さまざまな分野のスポーツを経験できたことで、実況者が知らなければいけない当たり前の情報と、初めて観た方がわかるラインの見極めが上手にできるようになったと思います。また、これまで触れたことがなかったスポーツも、喋るようになって好きになることができました。
ただ、僕の初志はW杯だったので、すべてはW杯で実況するためにやってきたのかなと思うところはありますね。
『柴田が大変なことをしでかしそうだ』
――スポーツ実況において、各局、伝統的な“教え”があると思いますが、テレビ朝日ならではの実況術などはありますか?
寺川アナ 声の強さですかね。特に発声や滑舌に関しては徹底的に鍛えられます。なぜかというと、スポーツ中継において一番盛り上がるシーンは最後に来ると相場が決まっているからです。そこで強さを出せないなら感動は伝えられない、と。
以前、森下桂吉さんというアナウンサーが、アテネオリンピックで金メダルを獲得した水泳の柴田亜衣さん(800メートル自由形)の実況をしていました。それまで日本人選手が中長距離の自由形で金メダルを取るなんてあり得なかった時代、その時の実況が私たちの中では“名実況”とされていまして。森下アナは「柴田が大変なことをしでかしそうだ」と表現したんです。普通ならば「しでかす」というのはポジティブな意味で使いません。ただ、これまでの歴史を考えると、そう表現してもおかしくないぐらいとんでもないことをやろうとしている。そういった雰囲気を見事に言葉にしていました。
森下アナは、他にも「やっぱり北島、強かった」という言葉も残したことで知られています。ライブで起きたことに対して、その場で生まれた言葉が“名言”になる、それがテレビ朝日のスポーツ実況の文化です。だから、私も用意した言葉ではなく、目の前で起きたことを表現することにこだわっています。