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大阪桐蔭“まさかのドラフト指名漏れ”余波「育成する時間がなくなった?」西谷監督が記者だけに漏らした“本音”とは《超強豪にいま何が?》
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/11 11:01
今秋のドラフト会議。大阪桐蔭OB・現役選手として松尾汐恩がDeNAから1位指名を受けるも、他の候補は指名漏れが相次いだ
「これからは本番への戦いが始まる。メンバーを絞っていく時期に入るけど、試合に出られないから不満があるとか、ベンチを外れるならやる気をなくすとか、そういう気持ちが少しでもあるものは、今すぐグラウンドを出ていってくれ」
部訓「一球同心」を合言葉にチームが一つにまとまる。この点こそが、大阪桐蔭が甲子園で結果を残し、数多のプロ野球選手の育成を果たしている要因だった。
「勝利に追われる」超強豪のジレンマ
その大阪桐蔭が今、揺らいでいるように見える。
もっと言えば、勝利と育成の狭間で、「勝利」にかける時間が増えたのではないだろうか。それを表すエピソードがある。
「2018年に連覇して、スタンド挨拶に行ってベンチに帰ってきたときに、西谷監督が僕のところにやってきて、『先生、この秋、どうやって戦おう』って言ってきたんですよね。もう次を見ているのかと驚きました」
これは西谷監督の高校野球の指導にかける「情熱」を証言する有友茂史部長の言葉だが、春夏連覇してもなお、勝利に追い掛けられている状況が浮かび上がる。
期待に応えるような結果を残せば、さらなる期待が押し寄せる。YouTubeにあげられた「シートノックの動画」が50万再生を超えるほど、チームの一挙手一投足が常に注目の的になる。そうしたプレッシャーが采配にも影響を及ぼしていると感じたのは、今夏の大阪府大会決勝戦だった。この大事な舞台で、ドラフト候補としても騒がれた3年生・川原嗣貴が先発に選ばれなかったのだ。
西谷監督の采配はこれまで、情に左右されることが多かった。エースの座をほぼ中田翔(巨人)に奪われつつあった辻内崇伸(元巨人)を先発させた2005年大阪大会決勝のように、「最後の舞台」は3年生を優先する、という傾向があったのだ。
しかし、今夏は、2年生の前田悠伍が先発した。点差が開いていたこともあり最終回のマウンドは川原が上がったが、西谷監督の勝利を優先した采配を感じた。無論、勝つための戦略としては正しいのだが……。
西谷監督に質問「育成する時間がなくなったのでは?」
つづく夏の甲子園はベスト8で敗退。これで重荷が取れるかと思ったが、新チームで迎えた秋は大阪大会、近畿を制し、神宮大会で2年連続の頂点。先述したドラフト指名漏れと相反する形での“好成績”に、かつての大阪桐蔭との違いを感じずにはいられなかった。