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大阪桐蔭“まさかのドラフト指名漏れ”余波「育成する時間がなくなった?」西谷監督が記者だけに漏らした“本音”とは《超強豪にいま何が?》
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/11 11:01
今秋のドラフト会議。大阪桐蔭OB・現役選手として松尾汐恩がDeNAから1位指名を受けるも、他の候補は指名漏れが相次いだ
2012年に藤浪晋太郎-森友哉(来季からオリックス)バッテリーを擁して春夏連覇、2014年夏は香月一也(巨人)、2017年は徳山壮磨(DeNA)が下級生の根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)らを引っ張って2度目のセンバツ制覇。根尾らが最終学年となった2018年は史上初2度目の春夏連覇。今春の甲子園制覇は実に8度目だった。
「チーム力向上」の前に「個の育成」があった
もっとも、大阪桐蔭が「勝利」と「育成」を実現できた理由には、先の世界の意識だけではなく、特筆すべきチームづくりも挙げられる。
その一例が、チームを強化する時期と個性を育む時期を明確に分けている点だ。
高校野球は周知のようにトーナメント戦である。一発勝負のトーナメントで求められる選手の役割はリーグ戦のそれとは異なる。「負けられない戦い」のためチームバッティングに徹するなど、時として「個」を犠牲にしなければならない。つまり、トーナメント制は一発勝負のドキドキハラハラや奇跡を呼び起こす一方で、育成の足枷にもなりうるのだ。
トーナメントで勝つことばかりにチーム方針が偏ると、選手の個性が開花しない可能性がある。選手として、将来的に目指すべきプレイヤー像と、目先の勝利を掴むためのスキルは二律背反する。選手の個性の成長という面では、1年間、甲子園で勝ち上がることばかりを目指すチームと、そうでないチームの差は広がるだろう。
その点、大阪桐蔭は公式戦と公式戦の間に「個人を育てる」期間を作っている。主に秋季大会の後(11月中旬~)と、センバツの後(4月~)がその期間にあたる。
この間、全体練習のメニューは大きく変わらない。異なるのは選手それぞれの「課題」に伴う意識だ。たとえば根尾が広角に打ち分ける練習をしているのに対し、藤原は長打力を上げるため遠くに飛ばす意識で練習をしているように。そこにチーム一律で進塁打の練習をするような“お遊戯会の空気”は存在しない。こうして個性を最大限高めたのちに、チーム力向上のステップに進むのだ。
その段階で、西谷監督はナインたちにこう語りかけるそうだ。