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脳梗塞で感じた「大切なのは『命、健康。以上』」大橋未歩(44歳)が今明かすテレ東退社と「フリーアナウンサーになった理由」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/12/10 11:02
34歳で発症した脳梗塞を経て、価値観が変わったという大橋未歩
「視聴率に一喜一憂」から大橋が変わったワケ
「会社が大好きで、休むまでは会社の視聴率に一喜一憂していましたし、自分がかかわる番組は数字で評価されるものと思っていました。その視点も大事だとは思うのですが、休んだ後は、このコンテンツが社会に対してどういう影響を与えるんだろうかという視点に変わったんですね。
たぶん、生死について考えた8カ月があったからだと思うんです。その前までは虚栄心や名声といったことの優先順位が高かったかもしれないですが、脳梗塞の後は、人生でいちばん大事なものは『命、健康。以上』と視界がクリアになったんですね。人間としての軸が整ったな、と感じました。そのとき、医療であったり、パラスポーツだったり、そういったものに携われたらいいなと思いました」
進むべき道筋が見えると、医療関係のシンポジウムなどのオファーも届くようになった。ただ、やりたいことを形にするのは容易ではなかった。会社からの了承を得るのが難しかったからだ。
「会社としては一局員に色をつけたくないという思いがあったようです。私のことを思いやってくださってのことだと思うんですけれど。ただ脳梗塞になってしまったのはもう曲げられない事実なので、そこで得た経験をいかしていかない限りは自分を肯定できないという思いがありました。そこは会社と考え方が違いましたね」
テレ東退社時も「何も計画はなかったです」
これから何をすべきかが見えてきて、それを後押しする体験もあった。『主治医が見つかる診療所』に出演したときのことだ。
「番組の中で脳梗塞の経験を語ったのですが、とても反響があり、『私が番組で話した症状と同じような兆候があり検査をしたら脳腫瘍の早期発見に繋がった』というお手紙もいただきまして、やっぱりその経験を語ることは、悪いことではないんだなと思いました」
2017年末をもって退社し、フリーランスとして一歩を踏み出した。
ただ、次の仕事や活動をしていくための環境を整えた上でのことではなかった。
「特に具体的に事務所を決めてもいなかったし、何も計画はなかったですね。とりあえず自分の中身をいったん白紙にしたいなと思ったんです。信頼する先輩に相談したら、『自分の中にスペースを作れば他の何かが入ってくるよ』と言っていただいたので、とりあえず局員という立場から抜けてみようかな、と。その後に入ってくるものがご縁であり、それが進む方向であったりするのかなと思いました。社会にとって必要であればアナウンサー関連の仕事は来るだろうし、何もなかったとしても、日本全体が人手不足だから、何かしら働いて食べていくことはできるだろう、仕事がなかったらアナウンサー以外の仕事をしようと思っていました」