徐々に試合の中でも独りよがりのプレーから、味方を生かし・生かされるプレーを習得していった。それがたった数回であっても、プレーで表現する姿が頼もしく、嬉しかった。日本代表選手がお世話になった指導者に贈る『ブルーペイント』には、「腕とキック これからもやります」と書かれていた。キャリアを振り返る上でも、大槻コーチとの時間は大きな一歩になった。

高校3年生時に抱えていた“心の揺れ”とは

　相馬にとって高校時代のハイライトは高3時に優勝したクラブユース選手権だろう。大槻コーチは別の世代の指導をしていたが、当時の相馬が抱えていた心の揺れを思い出す。

高3時の全日本クラブユースにて　©AFLO SPORT

「高2の頃だったと思いますが、3-2-4-1のウィングバックを任されるようになって少しフラストレーションを溜めていた時期がありました。ガンガン攻めたい選手ですから、守備に奔走したら自分の良さが出ないんじゃないか……と悩んでいたみたいです。

　だから言われたことをやる、なぜ求められているかを考えることが大事だよと伝えました。攻撃だけでなく守備でもチームに貢献できるようになり、実際に高3で日本一になれた。これは1つの成功体験だったと思う。大学でさらに成長した部分だと思いますが、今やプロの世界でサイドバックを任される試合だってある。すごいやつですよね」

　厳しく要求するコーチがいれば、逃げ場となって話を聞いてあげるコーチも必要。みんなで見守る指導方針が三菱養和SCにあったからこそ、相馬は階段を踏み外さずにステップアップできたのだ。

「つくづく運がいい選手だなと思いますね。チャンスが目の前に来た時にしっかり階段を登ることができる選手は決して多くはない。目標に向かってピュアに取り組めるといいますかね。もちろん巡り合わせに恵まれましたが、そういう目に見えない能力が備わっていたのかもしれません」（秋庭さん）

　早生まれだったことで最初はたくさんの壁にぶちあたったが、そのぶん、東京代表として国体を2度も経験し、昨年は東京五輪にも出場した。ドリブラーという性分ながら大きな怪我が少ないことにも“運”を感じる。身長165センチと今も小柄だが、両親譲りの身体能力で危険を察知してもヒョイっと相手をかわす能力が昔から備わっていた。同級生にはできない“経験”をしっかりと回収し、自信を積み重ねてきた。

東京五輪での相馬　©JMPA

　今回のW杯にしても従来通りの23人枠だったら当落線上にいただろう。ドリブルという明確な個性がメンバー入りに大いに役立ったことを考えれば、ストロングポイントを伸ばす三菱養和SCにやってきた選択も、いい巡り合わせだったと言える。

“そんなこと言うやつだっけ？”と（笑）。

　同級生の篠田コーチの証言によれば、メンバー発表会見はそれぞれの世代で携わってきたコーチ陣がテレビの前に集結したという。スマホの動画に収めた決定の瞬間をこう振り返った。

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