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ABEMAトップ・藤田晋社長を直撃インタビュー「W杯全64試合を“無料生中継”する理由」そして「思い描くスポーツ観戦の未来像とは」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/11/17 11:30
サイバーエージェント・藤田晋社長。取材は東京・渋谷のAbema Towersで行なわれた
インターネットという感覚すらもはやなくなってきている
――今回の無料生中継はフルHDの高画質放送になります。それに全試合でフルマッチ無料見逃し配信や試合直後の「ハイライト」など様々な機能や取り組みもあります。
「僕自身が普段サッカーを観ているので、かゆいところまで手が届くように、とは思っています。テレビの大画面で観るときでもハイビジョンのBS放送並みの画質になるよう、この1年かけてやってきました。それと自分の話で言いますと、(麻雀の)Mリーグ中継を観られなくて情報をシャットアウトして自宅に戻って、『追っかけ再生』で観ることがあります。今回のワールドカップでもそういうことができる。また、自宅にテレビを置いていない人や外出中の人もスマホやPCなどでどこでも観ることができます。今は時代の変わり目。デバイスがスタイリッシュになってきて、高画質放送に耐えられるようになりました。凄く便利になったテレビとして、時間と場所からの解放を多くの人に体感してもらいたいなって思います」
――もうスポーツを動画配信サービスで観るのが当たり前という時代になりつつあります。実際すでにABEMAではMLB、格闘技、大相撲など多くの競技を手掛けています。
「そもそもスポーツとは相性が非常にいい。まずもって放送枠の概念がないですから。たとえば将棋においては、ABEMAが放送している竜王戦の七番勝負は2日間ずっと放送していて、棋士たちの持ち時間はそれぞれ8時間あり、棋士が長く考える姿を映し出せるわけです。
ABEMAとしては当初インターネットリテラシーの高い若い世代をメーンターゲットに置いていたのですが、スポーツを観る一番の層としてM2層(35~49歳の男性)がとても多いことが分かりました。確かにうちの父親もマラソン中継をずっと観ていましたから、長い時間でも全然問題ないということ。おじさんたちからすれば麻雀も将棋もそうですが、スポーツ中継はたまらないってことなんでしょうね。画質も技術の進歩によってクリアできましたし、テレビでも観ることができますから、むしろネットで視聴しているという感覚すらもはやなくなってきているのかもしれません」
――カタールワールドカップ後におけるサッカーコンテンツの戦略はどのように考えているのでしょうか?
「残存プロジェクトと銘打って、サッカーファンに残ってもらえるようなコンテンツを揃えていきたいとは考えています。(今年7月に放映権を獲得した)プレミアリーグもその一つ。ワールドカップで活躍した選手を追いかけて、プレミアリーグを楽しんでいただきたい。
今回のカタールワールドカップ全64試合無料生中継はABEMAをメディアとして確立させることを大きな目的にしています。しかし我々としては単発で終わらせるつもりはありません。4年後もちゃんと放送できるように、しっかりと収益性を確保して放映権料の高騰に負けないようにしないといけないという覚悟を持っています」
――サッカーファンの藤田社長は多忙のなかでも、ワールドカップはしっかりと観るつもりなのでしょうか?
「もちろんです。睡眠は削れないので仕事を削るしかないと思っています(笑)」
藤田 晋Susumu Fujita
1973年生まれ。大学卒業後、人材派遣会社勤務を経て、1998年に株式会社サイバーエージェントを設立し、代表取締役社長に。2000年、同社の東証マザーズ上場を当時史上最年少の26歳で果たす。2016年に現在の「ABEMA」を発足。2022年12月からJリーグ・町田の社長も兼務する。